やさしくまろやかに描かれた世界観だけれど、『トラとミケ』には切なさも漂っている。季節はうつろうし、命ははかない。人生は一度きりだ。そんな当たり前の真理が、物語の根底にしっかりと吹き込まれているからこその切なさなのだろう。特にトラのかつての同級生・中村くんの「死」を描いた4巻以降は、ゆるふわな佇まいの作品の迫力が静かに増している。5巻では年を重ねてからの「恋」があたたかく語られた。そして最新第6巻で綴られているのは、生きていれば誰にでもいつかは訪れる「老い」である。

 85歳の敬老会会長・健一郎さんは、人を助けるのが生きがいだ。でも最近は、オレオレ詐欺にあってしまったり、妻が認知症になったり……。シビアな現実は決して軽いものではないけれど、猫たちの表情やおしゃべりは悲壮感からは遠く、どこまでも日常。ファンタジーのようにも思えるけれど、これってもしかするとすごくリアルなのかもしれない。

 6巻は特に最終ページがすばらしいので、コミックスを読まれる際にはぜひ楽しみにしていてほしい。季節は春、満開の桜が咲いている。ピンクの桜に囲まれて佇む老夫婦の姿を眺めていたら、やっぱり人生は美しいなあと思えて、涙がにじんだ。

※女性セブン2024年9月5日号

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