──ひとつひとつ読んでお礼を書かれるのは大変ではないですか?
「僕としては、当たり前のことしかしていない、という意識なんです。23歳で新劇の劇団『青年劇場』に入って約20年、舞台役者をしていまして、全国を回っていたんです。僕は主に北海道や東北地方の担当で、劇団員約20人を乗せたバスの運転もして各地の中学・高校を回っていました。芝居を観て感想をくれた人や劇団の会員からの手紙ひとつひとつに自分でまめに返事を書いたり、お土産を買って渡したりしていたんですね。だから、芝居を観てくれた人にアフターケアをするということが、僕の中に染みついているんです」
当て書きだった佐々木老人
──今回はどのような経緯で出演が決まったのですか?
「『地面師たち』に起用されたのは、大根仁監督との縁です。大根監督には10年前、ドラマ『リバースエッジ 大川端探偵社』(テレビ東京)で初めて使ってもらい、その後も、映画『バクマン。』、ドラマ『ハロー張りネズミ』(TBS系)……それが『地面師たち』のオファーにつながりました。覚えていてくれたんだなあ、と嬉しかったですし、台本をもらったら大事な役でしょ。視聴者が全7話を一気見するかは、第1話が面白いかどうかにかかっているわけだから。ビックリすると同時に、ワクワクしました
大根監督は脚本も書いていて、僕を想定して佐々木老人のシーンを書いたと聞いています。僕だけではなく、綾野剛さん、豊川悦司さん……みなさん、当て書きだった、と大根監督が『地面師たち』の完成報告会で話していました」
──難しい役だったと思います。役作りで意識されていることはありますか?
「いただいた台本を読みながら、行間を考えることですかね。役者の醍醐味でもあります。佐々木老人は借金があって、半分、認知症も入っている、と台本にあったので、自分の周りに似た感じの人はいないかな、と思いをめぐらせ、あの人のこの部分、あの人のこの部分と持ってきて、自分自身も入れて役作りをしました。12人兄弟の末っ子なので、姉が老人ホームに入っているんです。そこで、観察していたりしましたね(笑)。
リアルさを求めて声をはらず、肩を少し丸めて……。そうして本番にのぞみ、何度も撮るうちに、自然と身体が動くんです。アドリブが多くなり、相手の俳優もキャッチボールして受けてくれる。作中で『恵比寿の物件』の買い手と対面し、物件の写真を見せられたとき、自然と身体を乗り出して写真を見た演技はそのひとつです」