「世紀の美男子」と呼ばれた美貌を武器に映画界の歴史に名を刻んだ名優アラン・ドロンさんが、この世を去った。これまで数々の女性と浮名を流してきた彼は、一方で筋金入りの愛犬家だった。その愛犬を巡る壮絶な物語──。
フランス中部にある人口1000人ほどの町ドゥシー。その小さな町で最も有名な大豪邸が深い悲しみに包まれた。8月18日に亡くなった名優アラン・ドロンさん(享年88)の葬儀が、24日、彼の自宅敷地内で執り行われた。アランさんが主演した映画のテーマ曲が流れ、門扉の外にはファンが献花した花束が積み上がる。3人の子供たちや関係者と並んで故人を見送ったのが、彼の愛犬・ルボだ。
「ルボが生きて葬儀を迎えられたことに、ホッと胸をなでおろした関係者は少なくありません。一歩間違えれば、彼は“見送られる側”になっていたのだから」(在仏ジャーナリスト)
愛犬を安楽死させようとする遺言に批判が殺到
アランさんの死後、注目されたのが、ルボを名指しした「遺言」だった。
「生涯でのべ50匹近い犬を飼っていたアランさんは、超がつくほどの愛犬家でした。自分の死が近いことを悟ったのか、晩年、獣医師にルボの処遇をこう依頼していたそうです。“自分が死ぬとき、ルボも一緒に死なせて埋めてくれ”と。これが彼の死後に取り沙汰され、世間を騒がせた」(前出・在仏ジャーナリスト)
かつて、主君や夫などの死を追って臣下や妻などが死を選び、同じ墓に埋葬されることを「殉葬」と呼んだという。古代エジプトや古代中国のしきたりのようだが、それと同じようなことをアランさんは考えていたことになる。
「この遺言に対し、フランス国内にある2つの動物愛護団体が、ルボの殉葬に反対する声明を発表したんです。世間からも、健康な犬を安楽死させようとする遺言に批判が殺到。事態が沈静化したのは、動物愛護団体『ブリジット・バルドー財団』が、ルボはアランさんの親族が引き取ることが決まった、と公式インスタグラムで公表した8月20日のことでした」(前出・在仏ジャーナリスト)
あまりにも常軌を逸した「怖い遺言」だが、ペットの「安楽死」自体は不可能ではないという。
「動物は、法律上では人の所有物だとみなされていますから、飼い主が希望すれば、動物を安楽死させることは可能なんです。欧米では病気で苦しむペットに対して安楽死を選択することはままあります。フランスでも、犬や猫、馬といった動物への安楽死は普通に行われています」(別の在仏ジャーナリスト)
物議を醸した「自分の死に合わせて『殉死』してもらう」というアランさんの発想も、ルボを愛するがゆえなのかもしれない。
「フランスでは年間10万匹の動物が遺棄されているそうです。新たな飼い主が見つからなければ殺処分されてしまいます。それでも、現在は『動物も人間と同じような感覚を持って生きている』という認識が主流になってきましたから、健康な犬を安楽死させたいというアランさんの遺言は、やはりやりすぎだったのでしょう」(前出・別の在仏ジャーナリスト)
結局、ルボを引き取ったのは元パートナーのロザリーさんだという。アランさんの心配は杞憂に終わればいいのだが。
※女性セブン2024年9月12日号