「未曽有の暑さ」は、どこまで人をおかしくするのか。都心で暮らす女性が、交際相手の暴力で命を落としたきっかけは、あまりにも些細なことだった。だがその“1℃”は、男女にとっては途方もなく大きな差なのかもしれない。
「寝室を別に」「キッチンには一緒に立たない」「お互いの趣味に干渉しない」──巷には「熟年離婚」を避けるために、あえて夫婦で距離を置くテクニックがあふれている。だが、同じ家の中で暮らす以上、どうしても“共有”を避けられないものもある。それが「空気」だ。酷暑が長引くこの夏は、そんな目に見えないものにすら気持ちがからめとられる──。
8月30日、東京・広尾のマンションの一室で、20代の女性の死亡が確認された。119番通報したのは、この部屋で女性と同棲していた増田遼太郎容疑者(25才)。朝起きると、女性が廊下で倒れていたという。
「司法解剖の結果、女性の死因は外傷性ショックと判明しました。増田容疑者は傷害の疑いで逮捕され、今後の捜査次第では、傷害致死や殺人に逮捕容疑が切り替わることもあり得ます」(全国紙社会部記者)
ふたりはSNSを通じて2021年頃に知り合い、交際後は現場となったマンションで同棲していたという。警察の取り調べに、増田容疑者は女性の顔を殴るなどの暴行を加えたことを認める供述をしている。
「女性は顔だけでなく、腹部や足などにも複数か所の皮下出血がありました。過去に警察への相談などはなかったようですが、日頃からDVのようなことがなかったか、警察は捜査を続けています」(前出・全国紙社会部記者)
マンション住人が話す。
「以前から何度も、黒髪のかわいらしい若い女性が、インターホンを鳴らしてマンションの中に入って行くのを見たことがあるんです。ここに住んでいるはずなのに、鍵を持っていないことが不思議でした。しかも、帰ってきたと思ったらすぐにまたゴミ捨てに出てきたり、コンビニに買い物に行ったりしていたんです。もしかしたら、男性に服従させられ、使いっ走りのような生活を送っていたのかもしれません」
高級住宅街で起きた凶行ということ以上に、世間の関心を集めたのは、増田容疑者が警察に話した「トラブルのきっかけ」だった。
「増田容疑者は“部屋の温度が暑いとか寒いなどのやり取りで口論になり、顔をたたいた”と明かしています。つまり、エアコンの設定温度を巡ってけんかになり、それが最悪の結果につながったというわけです」(前出・全国紙社会部記者)
8月下旬の都心は連日、台風の影響で雷を伴う豪雨に見舞われた。もとより気温が高く、しかも湿度が高い上、天候が不安定な状態では、エアコンをつけて部屋を閉め切るほかない。女性は死亡する前夜の午後11時過ぎに、近所のコンビニで目撃されていた。部屋に帰り、いざ寝ようとしたときに待っていたのは熱帯夜。同棲相手との間に、エアコンの設定温度という問題が頭をもたげた。
「現場マンションは1Kの間取りで、主室以外には“逃げ場”がありませんでした。同じ部屋にいなければならない状況で、お互いに設定温度の落とし所が見つけられなかったのでしょう。顔面を殴打され、しかも寝室で寝られないと感じた女性が仕方なく廊下で眠り、そのまま亡くなったのかもしれません」(前出・全国紙社会部記者)