大量生産、大量消費
吉本新喜劇は演劇界の常識からいくとあらゆる面で規格外である。
なんばグランド花月と祇園花月の2つの劇場で365日、上演されている吉本新喜劇には現在4人の座長がいて、各座長は毎月2つの劇場で1週間ずつ公演を担当する。その際、劇場ごとに台本も、キャストも変える。
つまり、毎月8本もの新作を生み出していることになる。また、7月から全国を回っている「65周年ツアー」のような特別公演の場合も新作をつくる。国内では類例のない「大量生産、大量消費」演劇なのだ。
ガチガチでもよくない
そのため稽古時間は極限まで削らざるをえない。出演者が台本をもらえるのは、だいたい1週間前。合同稽古は初日の前日、深夜に3時間程度行なうだけだ。その数時間で本読み、立ち稽古、舞台上のリハーサルを一気にこなす。あとは当日、公演前にできる限り本読みをする程度だという。
ただ、先日行なわれた東京での初日公演の際は、もっとアバウトだった。体当たり演技が売りの女優、島田珠代が振り返る。
「本番の2時間ぐらい前、まだ、みんなお弁当とか食べてたんですけど、誰かが『本読み、どうします?』って言ったら、楽屋の中で『もう、ええやろ』って話になって……。初日ですよ! エグくないですか?」
横で聞いていた座長のすっちーは苦笑いを浮かべる。
「本音を言えば、やりたかったんですけど。ただ、言い訳じゃないですけど、ガチガチに作り込んでしまうのもよくないんですよ。そうすると、演者が遊びにくくなっちゃうんで」