「邪魔すんで~」「邪魔すんねやったら帰って~」。今や関西人でなくても、聞き馴染みのあるフレーズだろう。吉本新喜劇が生み出した笑いは、65年の歴史で広く浸透してきた。愛される「王道」の源流と現在に、ノンフィクションライターの中村計氏が迫った。
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ちゃんとやってないように見える。
「お前の番やぞ!」
「お前、セリフ忘れとるやろ!」
「台本にないこと言うな!」
吉本新喜劇を観ていると、たびたびそんなシーンに出くわす。セリフを忘れたという体を装っている場合もあるが、本当に忘れてしまっていることも多々ある。ただし、この手のやりとりが展開されるときは決まって劇場は大爆笑に包まれる。
座長のうちの1人で、今や吉本新喜劇のエースと言ってもいい存在のすっちーが話す。
「普通の芝居で『お前の番やぞ!』はダメなんですけど、新喜劇のお客さんの中では、それも許容範囲というか、そもそも完成品を求めてはいないと思うんです。そのかわり、笑かしてやというのはある。だから、セリフを忘れても、笑いに変えられればOKなんです。お客さんにセリフ間違えるなよとか堅苦しいことは言われないぶん、日本一『笑かしてくれよ』のハードルは高い舞台だと思いますよ」
そう、ちゃんとやってないように見えて、実は、ちゃんとやっている。それが旗揚げから65年も続いている理由なのだ。すっちーが続ける。
「張り巡らされた伏線を最後の最後で回収しアッと言わせる、みたいな謳い文句でやってる団体ではないんで。ちゃんとやってるねんけど、あえてそこは何でもないように見せておいて、でも、見終わったときにお客さんの胸にストンと物語のようなものが落ちてくるというのが理想かな」