事件後、深センの日本人学校の校門前には花が手向けられ、「日本人学校」の文字はカーテンで覆い隠されていた。
犠牲となった児童と同じ日本人学校に子供を通わせる保護者たちに現地で話を聞くと、事件による動揺が伝わってくる。
「この辺りは高層マンションが立ち並ぶ住宅街で、とても静かな場所です。また、中国なので街中に監視カメラがあり、セキュリティーが非常に高い。日本人の間では、『日本よりも安全だよね』などと話していた矢先のことだったので、驚きを隠せません……」
「深セン市南山区は外国人が多く、治安の良いエリアで、日本人だからという理由で怖い思いをしたことは一度もありませんでした。娘が被害に遭われた男児と交流があり、『優しいお兄ちゃんだよ』と教えてくれました」
「職場には中国人スタッフが多くいますが、事件が話題になることはなく、重大にとらえている様子もない。在住日本人との認識の差を感じます」
「日本人学校を監視しよう」
日本人学校の児童が狙われた背景には、中国社会で増幅される「日本人憎悪」があると見られている。
「習近平政権の愛国教育の強化により反日感情が高まっている。中国のSNSには『日本人学校はスパイの養成機関だからみんなで監視しよう』との書き込みが相次いでいました」(峯村氏)
そうした憎悪が現実世界にまで溢れ出している。今年6月、江蘇省蘇州市で日本人学校のスクールバスが襲われ、日本人親子がけがを負った事件では、犯人を止めようとした中国人女性も刃物で刺され、亡くなるという悲劇も起きた。
「中国のSNSでは犯人が英雄視され、犠牲となった中国人女性については『日本人を助けるなんて』と売国奴扱いされている」(峯村氏)といい、今回の事件後も〈大きな刀で日本人の首を叩き切れ〉といった過激な投稿が溢れた。厳しいSNS検閲で知られるはずの中国政府はそれを取り締まる様子もなく放置している。
この現状をこのままにしていいはずがない。
取材協力/角脇久志(香港在住ジャーナリスト)
※週刊ポスト2024年10月11日号