あどけない顔を見せることも(内田被告=左)

あどけない顔を見せることも(内田被告=左)

 公判には大川さんの内妻が証人として出廷し、内田被告と大川さんとの間で何があったかを語った。内田被告には少年時に覚醒剤取締法違反や傷害など複数の前歴、成人後も脅迫や2件の詐欺未遂などの前科があり、二度服役していた。内妻によれば、内田被告が一度目に服役したころ、大川さんは知人から内田被告の面倒を見ることを頼まれ、これまで世話をしてきたのだという。

「『(内田被告が)また罪を犯さないように、大川の会社で使ってやってほしい』と頼まれていたので、(内田被告の)支援をしていました。仕事が決まるまでの一人暮らしの費用や、運送会社のドライバーとして働くことができるようになるための免許合宿費用など、すべて大川が出していたと聞いていました。また大川以外からも内田は金を借りており、ほとんど返済していませんでした」(内妻の証言)

「お金の目処がつきそう」と言われ……

 事件2日前、内田被告が大幅に遅刻してきた話し合いにおいても大川さんは〈悪い道に進まないよう、仕事して安定した収入が得られるように……〉と内田被告に伝えていたと内妻は語る。事件前日に大川さんは、AKトランスで働き、借金返済をするよう内田被告に提案したというが、内田被告は「解体の仕事はしたことないのでできない。仕事というのは相性があるのでできない」と答えたという。

「『大丈夫だから、頑張るんだぞ』と大川が伝えても、内田は『できない、やりたくない』と言っていました」(同)

 話し合いは事件前日もまとまらなかったが、帰宅後の夜中に「内田から連絡が入って、『お金の目処がつきそう。少しだけでも会ってくれないか』と言われたため、翌日の事件当日に会う約束をしました」と内妻は言い、泣きながらこう続けた。

海で遊んだ日の1枚

海で遊んだ日の1枚

「大川は社交的で明るくて子供が大好き。とても優しい人でした。妹に障害があって、2人で介護してきましたが、今後どうやって介護していったらいいんかな、と話していたところでした」

 検察官は「被告や家族が危害を加えられる危険性、すなわち『やられる』状況があったとはいえない。二度の服役を経て、繰り返し内省や更生の機会を与えられてきたが、それを活かさずに出所わずか7か月で短絡的に殺害を実行した」と内田被告に懲役18年を求刑。9月6日にさいたま地裁は「危険が差し迫っていたわけではない。他の方法を取るべきだったのに殺害を決意した」と懲役17年の判決を言い渡した。内田被告は9月20日付で控訴している。彼は大川さんへの恐怖からではなく、単に借金返済を逃れるために滅多刺しにしたのではないか。

 控訴を受けて、大川さんの親友・Aさんは言う。

「散々気にかけて面倒を見てきたのに、本当に酷い形で恩を仇で返された。そして更に量刑不当で控訴している。遺族の気持ちをどう考えているのか」

(了。前編から読む

◆取材・文/高橋ユキ(フリーライター)

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