日常的に食べている肉だが、食肉になる過程として動物を解体する「屠畜」がある。屠畜の仕事に就く人の声から、動物の命をいただくということについて、『女性セブン』の名物ライター“オバ記者”こと野原広子が綴る。
* * *
いやぁ、ウカツだったわ。まさかこんなに重たい鉛を胸に打ち込まれるとは夢にも思っていなかったわよ。
数か月前、「私がずっと会いたかった人の講演会があるから聞きに行こうよ」と誘ってきたのは、刑務所の管理栄養士をしている黒柳桂子(55才・“柳”の正式な表記は“木へん”に“夕”に“ふしづくり”)だ。『めざせ! ムショラン三ツ星』の著者で、最近はメディア露出も多い。彼女が会いたかった人は、坂本義喜さん。1957年、熊本県生まれの食肉解体作業員だ。
講演会当日、合流した彼女から「とにかくいま、この本を読んで。短いからすぐ読めるでしょ」と一冊の絵本を渡された。『いのちをいただく』(文・内田美智子、絵・諸江和美、監修・佐藤剛史、西日本新聞社刊)という本だ。
この絵本は熊本県の食肉加工センターに勤務する坂本さんの体験談を基にしたもので、物語は坂本さんと息子さんが食肉加工センターの仕事について語り合う場面から始まって、牛の「みいちゃん」を同センターに運び込んだ人たちと出会う場面へと展開し、坂本さんは「動物の命を私たちはいただき、生かされている」ことの意味を改めて問い直す。
講演会場の三重県津市・白山市民会館には、小さな子供を連れた母親など中年女性が100人ほど集まっていた。
「私の仕事は食肉センター解体作業員。はっきり言えば屠畜業ですね」
ポロシャツに綿パンのラフなスタイルの坂本さんはサラッと話し出した。
「両親がその仕事をしていたんですけど、牛馬の血を浴びたまま帰ってくる。それが子供心に嫌で嫌でたまりませんでした」