中国・深セン市の日本人学校に通う男児が殺害された事件を受け、中国政府は「偶発的な事件」「類似の事件はどの国でも起こり得る」と主張して幕引きを図っている。だが、事件の背景には反日感情の暴走を野放しにする習近平政権の存在がある。
反日感情を高める役割を担ったのが「抗日コンテンツ」だ。『中国抗日ドラマ読本』の著者でライターの岩田宇伯氏が語る。
「2010年代半ばまでは派手なアクションが主体の抗日ドラマが目立ち、日本の軍人は登場するなり『バカヤロ!』と叫ぶようなわかりやすい悪役でしたが、2013年に中国政府が『抗日ドラマの過度な娯楽化を制限する』と発表し、習近平体制が軌道に乗り始めた2010年代後半に娯楽要素が消滅した。抗日ドラマはシリアス路線となり、冷徹で冷淡な日本軍が描かれます」
一方、時代に合わせて若者を中心にネットやSNSでの抗日活動が盛んになった。
「最近では、福島第一原発の処理水問題が注目された時期に、中国人の若手グループが“汚染水”を題材にしたミュージックビデオ(MV)を大量に作成し、動画サイトで流した。
これらのMVは1本1本が短く、抗日コンテンツにも視聴効率重視の流れが見て取れる。短い動画ゆえに大量に投稿されています」(岩田氏)
中国の動画サイトで抗日MVをチェックした。高校生3人組がラップで歌いあげる『百チュアン朝海(100のトリチウムが海に向かう。「チュアン」は“气”に“川”)』はこんな内容だ。
「世界可以没有日本但是不能没有海洋(世界から日本がなくなってもいいが、海をなくしてはいけない)」
この曲は中国版の動画SNS「抖音(ドウイン)」で71万の「賛」(いいね)を獲得。