最近になって、いくつかの動画投稿アプリがこうしたアカウントを閉鎖させたと発表したが、いまだに散見される。6月の江蘇省でのスクールバス襲撃事件の後も同様に閉鎖措置を取ったとしていたが、その場限りの措置で、結局、数か月後にはまた動画が氾濫していた。
日本のメディアはこうした事情をよく調べもせずに無責任に中国側の言い分を報道しているように見えてならない。上川外相はニューヨークで王毅中国外交部長(外相)と会談し、真相究明と再発防止、日本人の安全確保を要求したが、中国側は「個別事案だ」とゼロ回答だった。
また柘植芳文外務副大臣も訪中したが、NHKの報道(9月23日)によると、中国外務省の林剣報道官は、会談後の記者会見で「双方は(中略)偶発的な個別の事案が両国関係に影響しないようにすることを確認した」と述べたという。
日本側も個別事案であることに同意したと言っているわけで、およそ信じられない話だ。ここで日本側が黙っていたら、個別事案だと認めたことになってしまう。どうして対外的に否定しないのであろうか。
もう2人も亡くなっているのだ。生命の重さををよく考えていただきたい。こうした痛ましい事件を二度と起こさせないためにも、偶発的な個別事案として終わらせては決していけない。
【プロフィール】
垂秀夫(たるみ・ひでお)/1961年、大阪府生まれ。元外務官僚、前駐中国大使。立命館大学教授。1985年に外務省入省、1986年に南京大学留学。その後、北京、香港、台湾に駐在。2020年から駐中国大使を務めた。写真家としても活躍している。
※週刊ポスト2024年10月11日号