最も過酷だった撮影は、足をケガした85kgの南洋子(中島唱子)を背負って病院に運ぶ場面だった。
「ロケ地の那須高原で、運悪く雪が降ったんです。足は滑るし、本当に重くて、その頃手術したばかりの盲腸の傷が痛くなり、気を失いかけました」
妥協を許さない制作陣、彼らに必死に喰らいつく堀が“体当たりの松本千秋”を生み出し、視聴率は最終回30.3%(ニールセン調べ)を記録した。
「正直、最初は『こんなストレートなセリフを言うの?』と疑問に感じました。でも、それでは何も進まない。5年前に口腔がんだとわかった時、撮影当時のことが甦りました。どんな状況も受け入れて、前に歩き出さなければいけないと」
『スチュワーデス物語』は人生の教科書だった。
「松本千秋のようにドジでのろまなカメでも、一歩一歩頑張れば、そのうち立派なウサギになれると教えてくれた。あのドラマがなければ、今の私は存在しません」
【プロフィール】
堀ちえみ(ほり・ちえみ)/1967年2月15日生まれ、大阪府堺市出身。1982年3月『潮風の少女』で歌手デビュー。翌年、ドラマ『スチュワーデス物語』で大ブレイク。劇中で何度も発した「教官!」が第1回新語・流行語大賞の大衆賞に。11月、書籍『人生の悩みをシンプルにする50の言葉』(主婦と生活社)出版予定。
撮影/萩庭桂太 取材・文/岡野誠
※週刊ポスト2024年10月11日号