ドラマ好きへの影響はほぼなし
ただ、これらの背景はテレビ朝日をはじめ、日本テレビ、TBSなど、すべて放送局サイドの話に過ぎません。
特にドラマが好きな人であるほど「録画か配信で見る」という人が多く、同日同時刻に放送されたところで何の問題もないでしょう。特にストレスを感じることなく、「どちらかをリアルタイムで見て、どちらかを録画か配信で見る」。あるいは「両方とも録画か配信で見る」という人もいるなど、ほとんど影響を受けずに両作を楽しめます。
これは裏を返せば、「録画や配信でのドラマ視聴が増えた今なおテレビ業界では、リアルタイム視聴での視聴率獲得が何よりも優先されている」ということ。スタート時期を遅くしたり、放送開始時刻を遅らせたりすることで「わずかでも視聴率が上がるのであればやるべき」という判断基準なのでしょう。そこに、愛される作品ほど、リアルタイムではなく録画や配信でじっくり見られやすいドラマというジャンルとの矛盾があり、制作サイドを悩ませています。
一方でABCが制作する日曜22時台のドラマ枠は、2023年の『日曜の夜ぐらいは…』から『何曜日に生まれたの』『たとえあなたを忘れても』『アイのない恋人たち』『ミス・ターゲット』『素晴らしき哉、先生!』『マイダイアリー』まで7作すべてオリジナル。
さらに、岡田惠和さん、野島伸司さん、浅野妙子さん、遊川和彦さんら実績十分のベテランを起用したあと、最新作では20代の兵藤るりさんを起用するなど、どのドラマ枠よりも脚本家にこだわって制作してきました。そのため、視聴率、配信再生数ともに苦戦が続いている一方で、見ている人からの支持が厚い作品が多く、何らかのきっかけでヒット作が生まれそうなムードも感じさせます。
テレビ局にとって難しい日曜22時台
はたして今回の“同日同時刻放送”は、そんなテレビ朝日系のドラマ枠にどんな影響を与えるのか。また、今秋から15分スタート時刻を遅らせたことも含め、勝負を仕掛けられた側の日本テレビ系ドラマ枠はどのように対抗していくのか。
日曜22時台はドラマ枠だけでなく、1987年からシリーズが続くトーク番組『おしゃれクリップ』(日本テレビ系)、2010年から放送15年目に突入した情報番組『Mr.サンデー』(フジテレビ系)、大物ゲストを招いた「インタビュアー林修」で息を吹き返した感のある『日曜日の初耳学』(MBS・TBS系)がそろう密かな激戦区。
翌日の仕事や学校が気になるなど、放送局にとっては企画・構成・演出が難しい時間帯だけに、どんなジャンルのどんな内容で視聴者を引きつけるのか。今後も工夫や調整を重ねていくでしょうが、難しい時間帯だからこそ、他では見られないオリジナリティと他に勝るクオリティが問われそうです。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。