3日目以降、朝は決まって7時から、夜は9時から何通もメールが飛んで来る。こっちが返信すると、さして時間をおかずに、堅苦しい言葉ながら丁寧な返事が返って来る。
7日目の朝。〈今日も素晴らしい一日を過ごし、インスピレーションと喜びに満ちた時間をお過ごしください!〉で始まり、〈今晩も素敵な夜をお過ごしください〉で締めくくられるに至って、「いくらなんでもおかしい!」と思ったわよ。
9日目。いよいよ「んっ?」が積もりに積もった。そもそも、彼のように忙しい人が、見ず知らずの私に毎日毎日、毎回毎回、長文を送れるのか。あるときなんか570字だよ。さらに、私が国会議事堂案内のバイトをしていると書いたら、〈国会大厦を案内しているのですね〉と来た。調べたら、「大厦」は中国語で議事堂のことなんだよね。さらにさらに、〈今日の売り上げの一部を川島直美動物保護基金協会に寄付〉という文字。どこの誰が、亡き妻の名前「なお美」を間違えるよ。協会名も「保護基金」ではなくて、正しくは「動物愛護基金」だし。
そうなんだよね。ニセモノはどんなに頑張っても自分が本物ではないことを知っているから、どこかで緊張の糸が切れてボロを出すんだって。ずいぶん前にある古美術鑑定士がそう言っているのを聞いて、なるほどなと思ったんだけど、今回がまさにそれだわ。
詐欺師のメールの特徴はもっとある。話題を横に広げるのは得意だけど、深掘りはしないのよ。
たとえば、本物の鎧塚さんは京都府宇治市の出身なので、秀吉ゆかりの茶室を訪れたときの話を振ったんだけど、スルーされちゃった!
ああ、頭に来た!! そういえばヨロイヅカさん、〈いつかお会いしたい〉と言ってたのよ。それを思い出した私は、自分の身分を明記して、彼にインタビューを申し込んだの。そうしたら、〈2ヶ月は忙しいから会えません〉と即座にプッツリ。あんな長文を書けるのに? ヨロイヅカさーん、返事して〜!
【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。
※女性セブン2024年10月17日号