江戸時代中期に活躍した絵師・伊藤若冲による『竹鶏(ちっけい)図屏風』と、同じく円山応挙による『梅鯉(ばいり)図屏風』。金屏風に描かれた二曲一双の水墨画で左隻の鶏の絵を若冲、右隻の鯉の絵を応挙が描いている。当時の京都画壇きっての人気絵師ふたりによる「合作」が確認されたのは初となる。その経緯を、美術史家で明治学院大学教授の山下裕二氏が語る。
「今年初めに個人の方が所蔵されているという情報を得て、実物を確認しました。鶏と鯉はそれぞれが最も得意とするモチーフ。いずれも若冲、応挙の作として絵のクオリティに申し分なく、落款の書体、印章などからも真作と考えられる。
同時に発見された二曲一双の屏風は同じフォーマットに描かれ、屏風の金箔の継ぎ目も左右つながっており、落款も応挙は右下、若冲は左上と呼応するような位置に入っています。落款から応挙は天明7年(1787年)、若冲は寛政2年(1790年)以前と、制作時期もほぼ重なります。発注者については不明ですが、金屏風を仕立てたうえで、当時の京都画壇No.1(応挙)とNo.2(若冲)に画題を指定して依頼したのではないかと推測しています」
同作は、来年6月に大阪中之島美術館で開催される展覧会『日本美術の鉱脈展 未来の国宝を探せ!』で一般公開されるが、開催に先立つ記者発表会で初めてお披露目された。発表会には若冲研究の第一人者である東京大学名誉教授の辻惟雄氏も同席し、作品を生で鑑定。「若冲と応挙の作品と見て差し支えない」と太鼓判を押し、落ち着いたタッチで描かれた鯉と力のこもったタッチで描かれた鶏を見比べ、「明らかに、お互いを意識して絵を描いているのが感じられる」と語った。同時代に活躍した若冲と応挙だが、直接的な繋がりを示す文献はほとんど残っていない。作品としての両者の接点は、この屏風が初であり、唯一となる。
発表会では、若冲にまつわる作品として、幻の大作『釈迦十六羅漢図屏風』もお目見えした。原本は焼失した可能性が高く、現在行方不明。1枚の小さなモノクロ図版画像を基に、(株)TOPPANの最新技術でデジタル推定復元が行なわれた。監修には山下氏と東京藝術大学教授の荒井経氏が当たった。
「昭和初期に大阪で展示された際の図録に掲載された白黒の図版画像を手がかりに、2年かけて推定復元。図版を高精細にスキャニングしたところ若冲の作品でも静岡県立美術館の『樹花鳥獣図屏風』に近く、使用された絵の具や枡の描き方の参考にしました。色は図版から明度を計算、象など類例があるモチーフは参照して、デジタル上で彩色を施しました。枡目描きの特長となる立体的な方形まで特殊な印刷技術によって再現し、絵の具の盛り上がりも見事に表現されています」(山下氏)