いまは別々の施設で暮らす、おすぎとピーコ

若かりし頃の「おすぎとピーコ」

 逮捕後、行政の担当者が代理人弁護士とピーコの処遇を話し合った。そこで決まったのが、「施設に入る」という方針だ。

「両親と2人の姉を先に亡くし、弟も施設に入っているピーコさんには身寄りがなく頼れる人もいません。施設入所の話を聞くなかで、ピーコさんは思い出したように“弟とは違うところで”というニュアンスの言葉を繰り返したそうです。

 おすぎさんに会いたい気持ちはあったでしょうが、相当な覚悟を持って彼を施設に入れたわけですから、再びの同居には抵抗があったのかもしれません。それに顔を合わせるうちに、またいがみ合う生活に戻っても困る。ピーコさんなりにおすぎさんのことを思い、悩んで出した結論だったのでしょう」(前出・ピーコの知人)

 認知症の進行とともに、ピーコはおすぎを、おすぎはピーコを忘れてしまうかもしれない。別々の施設への入居は「今生の別れ」にも近い選択になる。

 今年8月、2人がわずか3か月だけ暮らした横浜市内のマンションはひっそりと売却され、兄弟が帰る場所もなくなった──。

 冒頭のグループホーム。テレビを見ながら腕や指を動かすレクリエーションを終えたおすぎは、おやつのお菓子をほおばると、幸せそうに微笑む。健康的で穏やかな昼下がりを過ごしていた。

(了。第1回から読む

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