裏金疑惑をはじめとした「政治とカネ」をめぐる問題を抱えた自民党に、有権者は鉄槌を下した。自公過半数割れは、2009年以来、15年ぶりのことである。だが、政界全体を巻き込む“本当の大嵐”がやってくるのはこれからだ。自民党総裁選で注目を集めた勢いで解散総選挙を乗り切ろうとした石破茂・首相の目論見は大きく外れ、恨みを募らせた反主流派との政争が始まる。発火点と見られるのは高市早苗・前経済安保相。高市氏を支持する反主流派は、ここぞとばかりに“石破降ろし”に動き出す可能性が高い。この石破氏と高市氏の対立は、石破首相の退陣、さらには自民党の大分裂へと発展する可能性も秘めている。【全4回の第3回】
「大平・福田の40日抗争の時とそっくり」
自民党中枢筋は、投開票直前のタイミングでも、総選挙後の石破降ろしの動きについて、「高市の推薦人の多くは、裏金や旧統一教会で関係のあった議員だから、落選する。どうせ高市の影響力は選挙後に大きく下がる」と強気な姿勢を崩さなかった。
だが、ポスト石破をめぐる自民党の主流派と反主流派の対立がエスカレートしていけば、そう高をくくってはいられなくなる。総裁選の結果に納得できない自民党の高市支持派が諦めず、首班指名選挙で小泉進次郎氏など主流派の新総裁ではなく、あくまで高市氏に投票すれば、首班指名に自民党から2人が立つという分裂状態になる。
そうした展開がかつてあった。
政治評論家の有馬晴海氏は、総選挙敗北から石破降ろし、自民党分裂までの展開が予想される現在の状況を、「大平・福田の40日抗争の時とそっくりになってきた」と見ている。
「40日抗争」は自民党総裁選で現職首相だった福田赳夫氏が大平正芳氏に“まさかの敗北”を喫して退陣に追い込まれた翌年(1979年)の総選挙直後に起きた。
大平首相が総選挙で議席を減らすと、福田派、中曽根派、三木派の反主流派が退陣を要求して大紛糾。大平氏が拒否すると、首班指名選挙に大平氏と福田氏の2人が立つ異例の事態となり、自民党は真っ二つに割れた。
僅差で大平氏が首班指名を受けた後も、反主流派はなおも抵抗して総選挙から内閣発足まで40日間かかった。戦後政治史に残る権力闘争だ。
40日抗争では最終的に党分裂には至らなかった。