「社会のルールがある中で、権利だけを主張しようとは思いません」──こう語るのは、歌手・長崎アンナさん。ボーカロイド「初音ミク」の販売制作元のクリプトンからもコスプレシンガーとして認知されている。その一方で、2009年に性同一性障害をカミングアウト。現在は国内・海外を問わずLGBT関連の啓蒙活動にも従事している。率直な思いを聞いた。
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悩みに悩んだ末の告白だった。
2002年から毎年出演する滋賀医科大学の学園祭ライブ。長崎アンナさんは2009年10月の同ステージ上で突然、自身が「心が女性」とトランスジェンダーであるとカミングアウトした。本人の心配をよそに観客の大学生らは「これからも応援するよ」と温かい声援で彼女を包んだ──。
翌年には2010年には性別適合手術をし、2017年には一般社団法人「LGB.T」の代表にも就任したアンナさん。カミングアウトの決断に至るまで、計り知れないほど大きな葛藤を抱えていた。所属事務所「レインボーミュージック」の叶ともみ社長も突然の告白に驚いた一人だった。
「本当に気づかなかったんです。それよりも本人が大きな傷を背負って生きていたんだと、10年近く一緒に過ごした私自身でさえ、その時に初めて知ったんです」
“大きな傷”──それは奈良県で暮らしていた幼少期まで遡る。アンナさんは小学校の頃に、同級生から「オカマ」というあだ名で揶揄されていた。中学から大阪府内の私学に進学するも、また同じあだ名を付けられたという。アンナさんはこう語る。
「いまなら分かるんです。私の言動が女性っぽかったから、そんなあだ名をつけられたんだと……。本音をいえばイジられるのもすごく嫌でしたし、何としても隠し通さないといけない。そう自分で自分に信じ込ませていたんですね。だからこそ、大人になっても誰にも相談できずに一人で抱えてしまった」
芸能界デビューは2002年。ビジュアル系の男性歌手「KEITA」として活動し、関西圏で人気の朝の情報番組でリポーター役を務めるが、旅ロケではこんな経験をしていた。
「旅館宿の入浴シーンまで撮るとは知らなくて、バスタオルで胸から下まで隠して温泉に浸かったんです。いま思えばスタッフさんも扱いにくいタレントだと思ったんでしょう。このロケを最後に仕事がこなくなりました」(アンナさん。以下同)