日本のお受験界の頂点に君臨する超名門・慶應義塾幼稚舎(以下「幼稚舎」)。合格すればエリート街道を歩めるが、その入学試験に「現役教員らが絡んだ金とコネの特別ルート」スキームがあるとしたら……。実際に2人の子供を幼稚舎に入学させた東京の某企業の経営者一族のAさんが前代未聞の懺悔告白をした。
Aさんによると、“お受験のフィクサー”と呼ばれるX医師が幼稚舎の合格請負人として「特別な入学ルート」を仲介。X医師は入学試験を担当する現役教員を“買収”しているというのだ。Aさんは、X医師に総額2000万円を現金で渡している。さらに、この特別な入学ルートの裏側に迫る──。【前後編の後編】
“お受験のフィクサー”と呼ばれるX医師の入学スキームに深くかかわっていたのが、5年前に世間を騒がせたY教師だ。
「当時、幼稚舎の現役教員だったY先生は幼稚舎受験を控えた志願者の親にルール違反の個別指導を行い、1回5万円以上の金銭や、高級ワインなどを受け取っていました。実際、私たちもY先生とは食事を共にし、上の子はY先生の指導も受けています。2019年夏に『週刊文春』が“あおぞら闇教室”として一連の疑惑を写真付きで報じ、その後、Y先生は懲戒免職処分になったそうです。Y先生は買収される現役教員たちの仕切り役だと聞かされていました」(Aさん・以下同)
入試現場での裏口工作は大胆かつ巧妙に行われたと振り返る。
「幼稚舎の入試では、教員に話しかけられた受験者の受け答えの内容が採点を大きく左右するとのことでした。ポイントは、“ひとりの教員が話しかけた受験者には、別の教員は話しかけられない”ということ。そのため、合格させたい子供にいち早く“買収教員”が話しかけ、高評価が出るように巧みに誘導する必要があるといいます。時には子供の話を補足するような質問をして、ゲタをはかせることもあると聞きました」
どの受験生が「金を払った子」なのか、試験官の教員にも、すぐに判別ができるようにあらかじめ“工作”がなされていたという。
「入試前に『当日、ウチの子供はこの服装で行きます』と知らせて、願書とは別に写真を撮り、名刺サイズくらいにプリントアウトします。裏には試験日と受験者名、集合時間、控室名などを記し、X医師を通じて教員たちに配布するのです。
教員たちは当日、この“特別な受験票”を胸ポケットなどに忍ばせて、チラチラ見ながら本人確認するのだと説明されました。私は、過去に実際に使われたサンプルをX医師から送ってもらい、自分の子供の分を作成しました」
入念な準備を経てAさんの子供が入試に臨むと、終了直後にX医師から連絡があってこう言われた。
「いま行動観察が終わったらしいよ。お子さんは最初は間違えたけど、すぐにやり直したって」
Aさんが振り返る。
「まず、試験の様子がX医師に筒抜けだったことに驚きました。実際に子供に確かめると、行動観察を最初は間違えたけど一生懸命やり直したら、試験官の先生に『よく頑張ったね』と声をかけられ、絵画の課題では別の先生が『すごいじゃん』とほめてくれたというのです。おそらく、X医師の息がかかった教員たちだったのでしょう」
そうした経緯で、Aさんの子供に合格通知が届くと、その後はさらなる出費が待っていた。
「合格後、X医師が“買収教員”へのお礼として渡す現金のほか、数万円の電化製品やお菓子などをリクエストされました。総額は200万円くらい。ちなみに幼稚舎の担任は6年間持ち上がりなのですが、入学後に子供の担任の名前をX医師に伝えると、『その先生はこっちの人だから、ちゃんと挨拶しておいてね』と言われました」
文春報道を機にY教師が失脚したのちも特別な入学スキームは継続していたとAさんは語る。成功体験を得たAさん夫妻は下の子も幼稚舎に合格させるようX医師に依頼したが、その際は「きょうだい割」が適用されたというのだ。
「下の子の受験時にはY先生がいなかったので、1人減った14人の教員を買収したと説明されました。ただし幼稚舎はきょうだいがいると受験が有利のようで、下の子のときは買収費用が1人30万円にディスカウントされました」