警察通訳を務めた経験がある在日ベトナム人男性・ファン氏(仮名、20代)はそう話す。
以前の家畜窃盗などは、犯人が食べて自家消費するケースも多かった。だが、近年は様子が異なるという。
「最近、ベトナム人犯罪グループによる衣料品店やドラッグストアでの大量万引きが多発していますが、盗品を転売する元締めが、ネットで集めた人々に指示して窃盗をおこなわせている。昨今の自動車窃盗も、似た構図があるのでは」(同前)
新潟旧BMの車両窃盗事件の容疑者らも、もともと面識はなく、ネット上で知り合ったグループだったと明らかになっている。ファン氏は言う。
「自動車窃盗は彼らの今年の流行です。いま、拘置所や刑務所にいるベトナム人はクルマ泥棒だらけですよ」
顔の見えない犯罪に、余罪の解明は困難を極めているという。最初の逮捕から3か月以上が経っても、他の旧BM店舗荒らしの証拠は固まらない。そもそも同一犯の犯行なのかも不明だ。
いっぽう、都内の自動車関連筋からは、こんな証言も出ている。
「関東のあちこちでトヨタやホンダの正規販売店から新車が盗まれたり、成田空港付近の屋外駐車場から盗まれたりと、被害が続出しています。関西地方でも起きているそうです」(ある自動車店のスタッフ)
顧客や同業者間の評判を気にして、被害を積極的に公表しない業者も多いという。すべてがベトナム人犯罪グループの犯行とは断定できないが、報道に出ていない事件も相当な数にのぼる模様だ。
後編記事では、ドライブレコーダーに残っていた窃盗団の「やり取りの実態」や、筆者が試みた犯行グループへの直撃取材について詳報する。
(後編につづく)
【プロフィール】
安田峰俊(やすだ・みねとし)/1982年、滋賀県生まれ。中国や在日外国人をメインテーマに執筆活動を行なう。2019年、『八九六四』で大宅壮一ノンフィクション賞、城山三郎賞をW受賞。近著に『中国ぎらいのための中国史』。
※週刊ポスト2024年11月8・15日号