地方の決定を覆した
選対委員長としての進次郎氏は女性候補を過去最多56人擁立したとアピールしたが、「不記載議員」の重複禁止で空いた比例の枠を埋めただけで、インパクトには欠けた。
「進次郎君の思いは半分も実現できなかったんじゃないかな。本気でやるなら準備が必要ですが、実際の進次郎君は永田町の論理に振り回され、幹事長の言いなりになった。そこに私は怒っています」(同前、以下「」はすべて牧島氏)
なぜ“言いなり”と断じるのか。牧島氏に聞くと、「自民党王国・神奈川が崩壊したんですよ」と嘆息して語り始めた。
「進次郎君は神奈川県連会長として10月上旬に地元の仲間と決めた候補者認定の案を、党執行部の決定で覆しました」
過去4回連続の比例復活だった経過を踏まえ、4区と9区の候補者について県連は「退路を断つ」意味で比例重複なしで申請したが、裏金問題による重複禁止の前職が続出した影響を調整するためか、党執行部は2人の重複を認めた。結果は2人とも落選。惨敗だった。
「県連会長でもある進次郎君は、『なぜ地方の決定を覆すのか』という問いを立てなければおかしい。幹事長に、『黙って選対委員長の私の思う通りやらせてください』と啖呵を切るぐらいでないといけなかったと思います」
牧島氏の怒りは、地方の現場に耳を貸さない自民党の体質に向けられている。長年、甘利明・元幹事長が出馬した選挙区・神奈川13区(旧13区が新13区と20区などに区割り変更)では、三菱商事などを経て公募に応じた女性候補である向山淳氏が内定寸前までこぎつけたが、昨年6月、党本部から提示があった男性の元経産官僚に決まった。
蓋を開けてみればこの元官僚は立民前職に敗れ、落選した。他方、北海道8区に転出した向山氏は立民のベテラン、逢坂誠二氏に肉薄して比例復活を果たし、明暗を分けた。牧島氏の表情は険しい。
「永田町からの指示で地方の判断を覆したことで失敗しているのです。進次郎君は責任者として率直に反省し、地域の声を受け止めるところから始めないといけません。決めたことを後で覆された地方には不信感が残ります。
同じようなことを繰り返して、この選挙に負けたんじゃないですか」
(後編に続く)
【プロフィール】
広野真嗣(ひろの・しんじ)/ノンフィクション作家。神戸新聞記者、猪瀬直樹事務所スタッフを経て、フリーに。2017年、『消された信仰』(小学館文庫)で小学館ノンフィクション大賞受賞。近著に『奔流 コロナ「専門家」はなぜ消されたのか』(講談社)
※週刊ポスト2024年11月22日号