新たな道筋を考える時、マルクスが19世紀に書いた『資本論』は参考になる。資本主義を打ち破る革命理論を打ち立てた“大きな物語”の本として記憶されているが、実は、かなりの紙幅が当時の劣悪な労働環境を告発することに割かれている。
大衆の悲惨さをいかに解決するか。その問題意識から、マルクスは日がな図書館にこもって新聞をめくり、労働者の苦境を綴る記述を書き写した。
本の中心にある革命理論が説得力を持ったのも、人々のこれらの苦境を解決するという文脈があったからだ。
現代の左翼も、大衆の悲惨さに寄り添い、解決を探る精神を取り戻すところから始めなければならない。
【プロフィール】
東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。株式会社ゲンロン創業者。著書に『ゲンロン戦記──「知の観客」をつくる』 (中公新書ラクレ)、『訂正する力』(朝日新書)など。
取材・構成/広野真嗣(ノンフィクションライター)
※週刊ポスト2024年11月29日号