日本が米軍の駐留経費を最も多く負担している。だが、トランプ氏は、そんな現状を受け入れようとせず、「日本は“タダ乗り”している」と信じ込んでいる。「石破提案を逆手にとっては」と側近が囁けば心を動かすかもしれない。「確かに地位協定は片務的で見直すべきだ」と応じ、駐留米兵の給与の一部まで負担しろとディールを持ちかけてくる懸念がある。地位協定は「パンドラの箱」と心得るべきだ。
石破氏が施政方針演説でこうした持論を封印したのは外務・防衛官僚から「米側の抵抗が強く、実現の見通しが乏しい」と説得されたからだ。日米安保体制は不平等だ──この受け止めは石破・トランプでは真逆なのである。
自民党政権は防衛予算をGDP2%(5年で43兆円)にまで引き上げたが、トランプ新政権は防衛費の更なる増額も求めてくるだろう。石破内閣は新たな発想でこれに臨むべきだ。「防衛予算は防衛省が使うカネ」そんな古い発想を捨て、宇宙、先端半導体、未来戦の先端技術、次世代通信の研究開発費は安保予算として計上すればいい。そうすれば日本の防衛予算はGDP比3%を超え、有力な対トランプカードになるだろう。
【プロフィール】
手嶋龍一(てしま・りゅういち)/1949年、北海道生まれ。外交ジャーナリスト・作家。NHKワシントン支局長として同時多発テロの連続中継を担う。2005年にNHKから独立し、外交ジャーナリスト・作家。著書・共著に『ウルトラ・ダラー』(新潮社)、『イスラエル戦争の嘘』(中公新書ラクレ)、『公安調査庁秘録 日本列島に延びる中露朝の核の影』(中央公論新社)など。
取材・構成/広野真嗣(ノンフィクションライター)
※週刊ポスト2024年11月29日号