アルバイト時代の転期
「20代後半の時は、役者の仕事だけでは食べていけなくてアルバイトをしていたんです。自分が役者をやって生きていくのは難しいんじゃないかって、悶々としていた時期もありました。その時に出会ったのが鳶職の親方で、男らしい人だった。
『単純に助けてやるのは簡単だけど、それじゃ嫌だろ』と言われて、自然とその人の下で働き始めました。誰かが取ってきた仕事じゃなくて、自分で働いてお金を稼いだっていう気持ちを実感して、それが活力になっていきましたね」
心の奥底にあった本当の自分を知り、次第に自分の中からエネルギーが出てきて、仕事も流れにのってきたという。
「親方はいまだに舞台を見にきてくれたり、『挫けたら来いよ』と言ってくれます。当時の仲間もしょっちゅう飲みにいっていますし、あの時期の経験があるからこそ、今の自分があると思っています」
舞台に立ち続ける
忍成さんは10月まで舞台『Come Blow Your Horn〜ボクの独立宣言〜』に出演。プレイボーイで独身生活を謳歌するアラン・ベーカー役を演じ切った。舞台と映像の大きな違いはお客さんから感じる雰囲気だと語る。「特にお客さんが集中している時の目線は圧倒的に怖い」という。
「1年に1回は舞台に立ちたいと思っているんです。役者としてのレベルを保つのに大事なので。それに加えて1カ月とか2カ月とか長い時間をかけて台本に向き合うことができるのは、すごく幸せなことだなと思っています。『あの場面のセリフがここで回収されていたんだ』とか気づかせてくれます」
舞台『ヴェニスの商人』12月6日から東京公演がはじまる。現在は稽古の真っ只中だ。
「森さんが演出されるから草彅さんがこれまでにないシャイロックになっていて、他のキャラクターすべてがそうなってる。昔からいるキャラクターなのになぜか新しい。
でも、ちゃんとシェイクスピアの『ヴェニスの商人』になってるんです。現代的になっているから自分に近い存在として見ることができる。僕は自分の出番じゃないところは、つい笑いながら見てしまいます」
生まれ変わった新しい『ヴェニスの商人』はまもなく幕が上がる。