今から55年前、1969年の出来事には前例のないことへの挑戦心、仕事への誇り、そして未来へ向かうパワーが横溢していた。アポロ11号が人類初の月面着陸を果たしたのも1969年。偉業を支えたいくつもの技術が現在の科学の礎となった。【週刊ポスト創刊55周年記念特別企画】
「アメリカ人を60年代のうちに月に送る」──。ジョン・F・ケネディ第35代大統領の宣言通り、アポロ計画は1969年7月20日に有人月面着陸を成功させた。時代は米ソ冷戦の最中、大国の威信をかけたプロジェクトだった。
「1957年に世界初の人工衛星打ち上げに成功するなど、ソ連は宇宙開発でアメリカに先んじていました。ケネディの胸の内には宇宙開発の舞台、つまり戦争ではない手段でアメリカがソ連を上回る大国であることを立証したいとのビジョンがあったと思います」(宇宙航空研究開発機構・的川泰宣名誉教授)
アポロ計画に投じられた予算は250億ドル以上。現在の価値に換算すると1120億ドル(約14兆円)に相当するといわれている。巨額の予算のもと、計画期限が迫る中での前人未到の偉業の裏には、名もなき技術者たちが困難に挑む姿があった。
「アポロ宇宙船はおよそ200万個の部品で構成されています。宇宙を飛ぶため部品を極限まで小さくする試みが日々行なわれ、それぞれ有機的に機能するよう半導体の小型化も徹底されました。その他、電子部品、ロケット素材、システム工学など、時代を先取りする革新的な技術が次々にアポロ計画から生み出され、今日の科学の礎となったのです」(前出・的川氏)
アポロ計画によってチタン合金や燃料電池など、今日もたらされた科学技術は数知れない。計画終了後、技術者たちの多くは民間産業に移り、研究に邁進。日本でも多くの国民がテレビ中継で刺激を受け、のちの科学技術の発展に寄与した。
取材・文/小野雅彦
※週刊ポスト2024年12月6・13日号