今から55年前、1969年の年の出来事には前例のないことへの挑戦心、仕事への誇り、そして未来へ向かうパワーが横溢していた。日本のGNPが資本主義世界2位になったのも1969年。ある意味で“日本が一番良い時”だった。【週刊ポスト創刊55周年記念特別企画】
焼け野原の敗戦国から、世界第2位の経済大国へ──。日本のGNPが資本主義世界第2位になったと発表されたのは1969年6月のことだった。1960年に池田勇人内閣が発表した所得倍増計画から10年も経ないうちに、インフラ整備や輸出強化などの政策が功を奏し、前年比14.4%という驚異的な実質経済成長率を実現。日本は「いざなぎ景気」に沸き立っていた。
「終戦直後の米や衣服など衣食住にまつわる国民の需要に対し、トラクターやミシンといった機械を活用して供給力と生産力を高めた。人々の購買意欲の膨張と比例するように労働者の給料も上がり、さらに需要が喚起されました。こうした好循環が続いたことが、高度経済成長を成し遂げた要因のひとつです」(経済評論家・塚崎公義氏)
1950年代に三種の神器と呼ばれた洗濯機、冷蔵庫、テレビが飛ぶように売れたのに続き、1960年代に入って国民が買い揃えたのはカラーテレビ、クーラー、カー(自家用車)の、いわゆる新・三種の神器「3C」だった。劇的に改善された暮らしのなかで、「中流意識」が芽生えていった。
「『明日は今日より豊かになる』と信じられた時代です。それどころか『今日は昨日より豊かだった』と実感できる幸福感が当時は満ちていました。どんなにつらい重労働も賃金の上昇が伴ったため、やりがいが感じられた。精神的に豊かな時代だったといえるかもしれません」(前出・塚崎氏)
驚異的なスピードでの経済発展となった日本に、世界は畏敬の眼差しを向けたのだった。
取材・文/小野雅彦
※週刊ポスト2024年12月6・13日号