ビニール袋を開けてみると、隠してからかなりの年月が経過していたコカインは、真っ白から黄色に変色していた。「そのままトイレに行って、ジャーって流して終わり」すぐにトイレに流したのには、こんな理由があった。「もしも変色したクスリを手にしている時に警察が来たら、その場で現行犯逮捕される。20年クスリをやっていなくても、捕まってしまえば誰もそうは思わない。本当にやっていなかったんだと言っても、ヤクザの言うことを人は信じない」。
人の見方なんてそんなもの
いい例が泥棒だと幹部は話す。「前科何犯の泥棒が足を洗って、真っ当に仕事をして暮らしていても、職場で万引きしたと疑われれば、”足を洗ったと言ってたが、やっぱりやってたんだ。そういえば動きが怪しかったよな”と言われるのと同じで、俺がクスリで捕まれば、”そうだと思ったよ、目がおかしかったものな”とか、”やっぱ、そうか。あの時、呂律が回っていなかった”とか、挙動不審だったとか言われるものだ」という。
変色したようなクスリでも、常習者なら使ってしまうのではないかと聞くと、「やらないと思う」と答える。「湿気やカビで劣化したと思うが、変色したクスリなんて使ったら、その後がどうなるかわからない」という。もともと混ぜ物が多いという違法薬物には、売人でも何が入っているのかわからないらしく、劣化したモノは危険だという。「クスリをやるヤツらは、買えばすぐに使う。変色するまで取っておくヤツなんていない。だがここで俺が捕まれば、”あいつ、ずっと隠し持っていたんだ”とか、”いつでもやれるように持っていたんだ”と言われる。人の見方なんてそんなものだ」(幹部)。
「やっているのがバカらしくなって、すっぱり止めた」という幹部だが、違法薬物に手を出してしまったという過去は、何かにつけいつまでも、どこまでも追いかけてくるようだ。