1986年5月、オープンカーでパレードするチャールズ英皇太子とダイアナ妃。東京・青山通り(時事通信フォト)

1986年5月、オープンカーでパレードするチャールズ英皇太子とダイアナ妃。東京・青山通り(時事通信フォト)

慣れてきた頃が危ない

 選挙なら見せる警備が効果的だが、「外国からの要人などを警護する場合、必ずしも見せる警備ができるとは限らない」と記者はいう。場所によっては警備が日本的な景色や風景の邪魔になったり、歓迎しようと集まった沿道の人々の視線を遮ってしまうからだ。視線を遮ってでも警備で固める場所ももちろんあるが、歓迎ムードを分かりやすく提示するために、一部で警備の形式を変更して、ものものしくない雰囲気を演出するようなことをしているようだ。

「少し古くなるが、その姿を一目見ようと多くの人々が沿道に群がった故ダイアナ妃とチャールズ皇太子の来日の時などでは、沿道の最前列に子供や車いすに乗ったお年寄りなどが優先された。目線が低いので後ろになってしまえば前は見えない。普通に考えて当然のことだが、ここに警備のポイントがある」という。

 警察官が沿道最前列に並ぶことはできないが、不審者が国賓を襲うことは阻止しなければならない。「その場合、子供や車いすのお年寄りが最前列にいれば、不審者はそれを超えなければならず、沿道から急に飛び出してくるのを阻止する形になる」と記者はいう。つまり、現場の警察官が不審者を確認するまでに少し猶予がある可能性があるのだ。もちろん、不審者があえて乗り越えなければならない場所を選んで襲撃するとは限らない。しかし、いかなるケースも想定しながら警備をすることが現場の警察官には求められるのだ。

 自然豊かな地方の地を要人が訪れる時、日本らしい美しい景色を堪能してもらうのもおもてなしになるが、要人警護を考えれば好ましいとはいえないらしい。「沖縄の地を外国の要人が訪れた時、目の前にサトウキビ畑が広がっていた。どこまでもサトウキビ畑が広がっていたので、高所から狙われる危険はなかった。だが畑の中に隠れてしまえばどこからでも飛び出してこれる状況に、警察官らは景色の邪魔にならないよう、自分たちもサトウキビ畑に身を潜め警備していたんだ。真夏の沿道に尻を向け、何十人の警察官がサトウキビ畑に腹ばいになって警戒していたのを見た時は、さすがに大変だなと思った」と、記者はいう。ドローンを飛ばせば不審者などすぐに発見できるのではと思うが、広い範囲をくまなくカバーしつつ不審者に対処するには警察官の手が必要なのだ。

 ドローンや金属探知機、防弾板など警護・警備に新しい手法が取り入れられているが、どれも使うのは人間。記者は「事件があり、新しい機材などが導入されている時は誰もが緊張感を持っているが、慣れてきた頃が危ない」と指摘する。警備・警護している警察官や現場が”ここは大丈夫、うちは問題ない”と思い始めた時が、本当の警備の死角かもしれない。

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