クレームなのか、フィードバックなのか、その線引きが難しい時代である。コラムニストの石原壮一郎氏が考察した。
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「私にもし(苦情の電話が)来たら、まずひどいですよ。完全に相手を威嚇します。お前のところに今(クマを)送るから住所を送れって」
12月17日の秋田県議会で、県や市に寄せられるクマの駆除に対する苦情電話の対応について、佐竹敬久知事はこう答えました。続けて「話してわからない人にはガチャッと(電話を切る)」「話してわからない人には、あまりお付き合いする必要はない」とも言っています。
やや過激な表現ではありますが、ネット上の反応は大半が「よく言ってくれた!」と称賛する声で、批判はほとんどありません。佐竹知事は去年10月にも、クマの駆除に対する過剰な抗議電話は「業務妨害だ」「乱暴な電話はすぐ切っていい」と言い切りました。
ちなみに、その発言と同じ日に地元で行なわれた会合で、愛媛県の特産品である「じゃこ天」を「貧乏くさい」と言ってしまっています。そちらは「さすがに失礼だ」と批判を受けました。しかし、知事の発言を申し訳ないと感じた秋田県の人たちが、メーカーに「じゃこ天」をたくさん注文したり、愛媛県側も「おかげで有名になった」と前向きにとらえたりなど、周囲の大人力あふれるフォローのおかげで心あたたまる展開になりました。
以前から率直な発言がしばしば話題になる佐竹知事ですが、江戸時代の秋田藩主の末裔ということもあって、多くの県民から「おらが殿様」と親しまれています。今回の「お前のところにクマを送る」という大胆な発言も、日頃からクマの脅威にさらされている県民にとっては、ひじょうに頼もしく感じられたことでしょう。
抗議の電話で「お前も死ね」「税金泥棒」と罵倒された職員も
秋田県では11月下旬以降、市街地でのクマの出没が相次いでいて、11月30日には秋田市内のスーパーにクマが侵入し、従業員を襲ってケガをさせたあと店内に居続け、2日後に捕獲されて駆除されました。それに対して、県や市にはたくさんの抗議の電話が寄せられます。なかには「クマを殺すならお前も死ね」「税金泥棒」といった激しい言葉を投げつけられたり、長時間にわたって延々と抗議が続いたりすることもあったとか。
翌18日の記者会見で佐竹知事は、「昨日の話は例えですよ」と言いつつ、トップが悪質なクレームに対して毅然とした態度を示すことで職員を守る意図があったと、あえて過激な表現を使った真意を説明しました。仮に、組織のトップが「どんな声にも謙虚に耳を傾けなさい。こっちから電話を切るなんてとんでもない」と言い出したら、最前線で独りよがりな正義感をぶつけられる職員はたまったもんじゃありません。
秋田県に限らず、クマの駆除が報じられるたびに、県や地方自治体には全国から多くの抗議電話が寄せられます。「ケシカラン!」という意見は、大半が県外からだとか。地元の人にとってクマがいかに脅威かを想像できない人とは、たしかにどれだけ話してもわかり合えないでしょう。単に日頃のうっぷんをぶつけているケースもありそうです。