大阪市の南に位置する堺。JR阪和線・鳳(おおとり)駅から徒歩7分ほどの住宅地に佇む『赤坂酒店』は、初代店主の赤坂節子さん(68歳)が20年以上にわたって切り盛りする角打ちだ。今宵も美味い手料理で一杯やりたい客らで賑わっている。
「わしはいつも特等席。ママ(店主)の調理する手元を見ながら飲むんがええんや」(20年来の常連)
「ママの顔を見たら、あぁ今日も無事に済んだと思う。もう習慣や」とホッとした顔で一献傾けるのは、あべのハルカスで働く馴染み客。
節子さんは「皆さんの笑顔を見るのが日々の楽しみ。やめんといて言われると嬉しいもんな」と、牛すじを炊く鍋からつゆを掬(すく)いながら話す。
「ここには、仕事帰りに立ち寄る人も、家で飲まんと晩酌に来る人も、バスに乗ってわざわざ通う人もおる。いろんな客が毎晩来よるで」と、天ぷらが揚がるのを待ちながら一杯やるのはほろ酔い顔の常連客だ。
背の高い60代の客が「落ち着ける店を見つけるまでが人生半分。残り半分はそこで飲んで過ごすっちゅーこっちゃ。名言やろ?」と胸を張ると、「ほんまかいな。誰が言うてん」とすかさず突っ込みが入る。「俺やがな」で笑いが起きた。
「いや、一理あるで。角打ちも昔はようさんあったけど、最近は減ってきたしな。人は一人では生きられへん。顔見知りと話しができる大事な場所や。この店はみんなで大事にせなあかん」(先の仕事帰りの客)としみじみ。
「この店に来る客はみんなええ人や。だから安心できんねん。みんなわろてるやろ? それが一番や」(別の常連)
堺は、だんじり祭りが盛んな街でもある。山車(だし)の引き手の仲間もこの店に集うという。10月の秋祭りでの引き回しが終わるとまた来年。
客の一人が「節子さんの息子は、ふたりとも”大工方(だいくがた)”としてだんじりの屋根に乗ったんやで」と教えてくれた。
「バランス感覚と運動神経が抜群なんや、華があってな。今は後進の指導に当たってるわ」と別の客もいう。「ええ乗り手やった」と称え合うのが皆の誇りだ。「祭りは、頭の中を空っぽにしてくれるからええねん。頭使いすぎたら、人はアホになるで」と長老がぽつりと名言。