元日に90歳、卒寿を迎える倉本聰氏。同氏が手掛けたドラマ『北の国から』に出演した俳優・竹下景子が、とっておきのエピソードを明かす。
1981年に始まった『北の国から』は、全24話でレギュラー番組を完結。その後も「83冬」から、「98時代」まで断続的に続き「2002遺言」で最終話を迎える。
竹下景子が演じる宮前雪子は、黒板五郎(田中邦衛)の妻・令子(いしだあゆみ)の腹違いの妹で、黒板家と同居生活を送る役柄だった。
「初めて富良野に行ったときは、いまのような観光の“か”の字もないような大農村地帯で、山でも川でもまずそのスケールにびっくりしました。春夏秋冬、撮影で行くわけですが、冬の厳しさはすごくてもう南極越冬隊みたいな重装備で、スタッフもスノーブーツをはいて臨みましたね」
20年余りにわたって続いた『北の国から』は、文明の意義、仕事や家族のあり方、地域格差など、北海道の大地から日本人に向けてさまざまな問題を提起し続けた。
物語は、北海道に移り住んだ五郎と息子の純(吉岡秀隆)、娘の蛍(中嶋朋子)ら黒板家を軸に、その変化と成長を描きながら展開していく。
「最初に倉本先生からは、『鼻をつままれてもわからない真の闇をあなたは知っていますか』と訊かれました。富良野では月のない夜は本当に真っ暗になるし、逆に月の夜は明るい。そういうことをまず身体でちゃんと感じなさい、ということだったと思います。
長期間の撮影だったので、みんながひとつの大きな家族みたいでした。邦さん(田中邦衛)のお人柄も大きかった。気さくで、お茶目で、優しくて、スタッフに対しても私たちに対しても分け隔てなく接していた。そんな邦さんのもとで純と蛍も一作ごとにどんどん成長していく。それはもう輝くような成長ぶりで、眩しいぐらいでした。
ただ、最初は10歳にも満たない子どもだから辛かったと思います。朝から晩まで寒い中で頑張っていたけど、吉岡君がメイク用のスポンジに“倉本のバカ”って書いていたぐらいでしたから(笑)」
国民的ドラマともいわれる『北の国から』。熱狂を呼んだのは、「倉本先生の怒りが秘められていたからでは」と竹下。
「日本は経済第一で走ってきて、大量生産、大量消費するようになって、もっとつましく生きられないのか、と。ドラマの中では、そんなバブル前からバブル崩壊後までの日本に対して、地方から先生なりのメッセージを発信し続けていたのだと思います」
【プロフィール】
竹下景子(たけした・けいこ)/1953年9月15日生まれ、愛知県出身。NHK『中学生群像』出演を経て1973年NHK銀河テレビ小説『波の塔』で本格デビューし、映画『男はつらいよ』のマドンナ役を3度務めるなど活躍。
取材・文/一志治夫
※週刊ポスト2025年1月3・10日号