やく:綱取りの2大関より大の里のほうが強いんじゃないですかね。
杉山:優勝は誰かって聞かれたら琴櫻だって答えたいが、私は大の里を筆頭に挙げますね。彼は常に負けた相撲に対して反省しながら、次の場所に備えます。人間的に非常に素直で、真面目な男。引いたり叩いたりしない攻めの相撲が評価できる。
九州場所での敗因は相手に研究されたことに加え、相撲がまだまだ甘い。腰も高いし、攻めた時に相手に残されると逆転されることが多い。気持ちのうえで焦りすぎ。
やく:師匠の二所ノ関親方は『強い力士は“いったん止まる力”がある』と言いますね。まさに大の里の直すべきポイントであり、師匠が授けたいと思うポイントと合致している。早い時期に修正されてくるのではないかなと思う。初場所で優勝して、琴櫻や豊昇龍が凡庸な成績に終わった場合、並ぶ、あるいは逆転という感じになってくる。
杉山:琴櫻は次も九州場所のような相撲が取れるのか。それ以前の相撲に戻らないかという不安が若干ある。そう考えると大の里のほうが“伸びしろ”があるからね。
やく:おっしゃる通り。
杉山:でも2025年中に琴櫻と大の里は100%横綱を張ると信じています。
やく:豊昇龍はそのあとから追っかければいいですよ。大きい(横綱)のがドン、ドンといるなかで小兵技能派横綱が待望される。大鵬と柏戸が先に上がって、栃ノ海があとで追っかけたように。
九州場所で豊昇龍の相撲が変わったという声もあったが、そんなに変わっちゃいない。持ち味は二丁気味にグッと踏み込んでの投げ。かつて千代の富士は投げから前ミツを取る相撲に変えて、成績が安定した。そういう劇的な変化があれば横綱候補だが、ブンブン投げているうちは調子に小さな波ができてしまう。
(後編へ続く)
【プロフィール】
杉山邦博(すぎやま・くにひろ)/相撲ジャーナリスト。1930年、福岡県生まれ。1953年に早稲田大学文学部卒業後、NHKに入局し、スポーツ担当アナウンサーとして大相撲報道で長きにわたって活躍。現在、日本福祉大学生涯学習センター名誉センター長、同大学客員教授を務める。
やくみつる/漫画家。1959年、東京都生まれ。漫画家。1981年、漫画『がんばれエガワ君』でデビューし、1996年『文藝春秋漫画賞』を受賞。元日本相撲協会外部委員で、テレビコメンテーターとしても活躍する。
※週刊ポスト2025年1月17・24日号