「テニスコートの出会い」から始まった(昭和33年12月撮影/時事通信フォト)

「テニスコートの出会い」から始まった(昭和33年12月撮影/時事通信フォト)

女性・女系天皇議論の危うさ

佐藤:それからもうひとつ、エンペラー(皇帝)としての天皇の役割を考えておく必要があります。エンペラーの特徴は、複数の民族グループを統治していることです。

片山:なるほど。

佐藤:日本の予算構造を見るとよく分かりますが、北海道と沖縄は外交予算が組まれている。内閣府の沖縄担当と国交省の北海道開発局が予算を組み立てており、国家として北海道と沖縄は「外部領域」ということ。だからこそエンペラーが必要で、アイヌ民族を先住民として認めるとか、上皇が琉歌を詠んだりすることで統合してきました。

片山:天皇家の歴史を見ると、大和朝廷が大嘗祭等を行なう際に遠くの国の人々を連れてきて歌の贈答をすると、九州の隼人が騒音を立てて囃すわけですね。そうすることで、辺境の人々が天皇の代替わりのエネルギーを与えてくれる。必ず周縁の人々を仲間に入れて代替わりを繰り返すのです。

佐藤:外部領域を組み込んでゆく。天皇のそうした機能が薄れていくと、モノトーンな国民国家になっていきます。

片山:おっしゃる通りで、天皇を外した右翼になると、外部領域としての北海道と沖縄は無関係になり、本州が純粋な日本となる。その結果、解体の方向へ向かうでしょう。右派のエネルギーは今、そうした方向に傾いているようです。

佐藤:だから、アイヌ民族の先住権を認めない主張や、沖縄に対して基地の過重負担を強いる論調は、天皇制を崩す方向の動きに他なりません。

片山:ご指摘されたような日本を解体する理屈を、一生懸命ナショナリズムと呼んでいるわけですね。

 昭和100年は、明治以来続いた天皇制の分岐点に差し掛かっている印象を受けます。

佐藤:天皇制を維持したいのであれば、私は女系天皇、女性天皇といった議論は危ないと思います。なぜなら、天皇制というそもそも非合理性を孕んでいるシステムに、部分的に合理性を持ち込もうとしているからです。キリスト教も、非合理なシステムをそのまま受け入れているから存続しているのです。

片山:生前退位というタブーが解けた今、第2のタブーである皇位継承者の条件変更も現実味を帯びています。その一方で私は、日本ではいくら理屈を考えても、共和国的な政体でまとまることはできないと思っているのですが……。

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