場を盛り上げるプロフェッショナル
「吉村さんのことは知っているが、平成ノブシコブシのネタを見たことがない」という人は少なくないでしょう。実際、現在のバラエティには欠かせない芸人の1人である一方でネタ番組への出演はほとんどなく、賞レースの『M-1グランプリ』や『キングオブコント』では準決勝止まりなど目立った実績はありません。
それでも吉村さんは2010年代に入ったあたりから業界内でジワジワと評価を得ていきました。一般層にその評価が広がりはじめたのは2010年代中盤。『新チューボーですよ!』(TBS系)のアシスタントに抜てきされて巨匠・堺正章を盛り立てたほか、『嵐にしやがれ』(日本テレビ系)ではコーナー進行役としてアイドルの5人をサポートし、『くりぃむクイズ ミラクル9』(テレビ朝日系)や『優しい人なら解ける クイズやさしいね』(フジテレビ系)などクイズ番組への出演も続きました。
「ノブコブの吉村って、よく見るけど何が凄いのか、どこが面白いのかわからない」。それでも「吉村が出ている番組は明るくて楽しそう」というイメージが2020年代に向けて少しずつ浸透していきました。
まさにそんなイメージこそが吉村さんの真骨頂。「番組に明るいムードをもたらし、盛り上げるためなら何でもやる」というプロフェッショナルなスタンスがスタッフだけでなく世間の人々にも浸透したのでしょう。
話を振られたときはもちろん、盛り上がりが足りない。あるいは、共演者がスベリそうなときは、前に出て全力で盛り上げる。その結果、自分がスベってしまっても気にせず、むしろ「負け姿」を見せて笑いにつなげていく。
さらにそれは「芸人同士で評価されたいから」ではなく、「スタッフの期待に応え、共演者を助け、視聴者を楽しませる」ために行われている。どこか飲み会の宴会部長を思わせるような頼もしさが支持を得ている理由の1つでしょう。
同世代の千鳥、川島明に並び立つか
なかでも評価を固めたのは前述した『嵐にしやがれ』。嵐の5人は仲がよく楽しげなムードを醸し出すことがうまい一方で、バラエティとしての笑いを生み出すことに多少の不安がありました。しかし、吉村さんが進行役を務めることでメンバーのテンションがワンランク上がり、リアクションも大きくなり、ボケの数も少しずつ増加。
嵐のファンを中心に「実は吉村が凄い」という声が広がったこともあって現在もメンバーとの共演が多いほか、1月2日には『ぶっとび!豪傑伝説』(フジテレビ系)ではSnow Man・宮舘涼太さんとMCを務める番組も放送されました。
コーナー進行のみならずMCとしての評価を得つつある現在も、「単独MCとして前面に出るのではなく、アイドルを立てながらダブルMCを務められる」というポジティブな意味での小物感も吉村さんの強みでしょう。
その他でも、「破天荒キャラを前提にしながら大きなスキャンダルがない」「44歳という年齢以上に若々しく清潔感のある見た目」なども起用が増えた理由の1つ。1月1日に一般女性との結婚を発表したことでますます好感度が上がり、MCとしてのオファーも増えていくのではないでしょうか。
吉村さんは現在バラエティのトップシーンを走る千鳥、かまいたち、麒麟・川島明さんと同世代であり、年末年始の飛躍をきっかけに同じ立ち位置までのぼり詰める日も遠くないのかもしれません。さらに現在の勢いが続けば、「お師匠さん」と慕う有吉弘行さんのように各局のゴールデンタイムで冠番組を持つMCになることも夢ではないでしょう。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。