アメリカ社会における「保守派」とは
そもそも“保守派”とはどういう考え方をしている人たちのことを指す語なのかの定義は、国によっていろいろと異なる。しかし保守派とはおおむね、それぞれの国の社会的な成功者や上流階級たちによって支えられてきた思想だという傾向はある。そういう観点から言うと、アメリカの保守とはまず「WASP(ワスプ)」によって支えられてきたものだという、一般的なイメージがある。WASPとはすなわち、W=ホワイト(白人)、AS=アングロ・サクソン(イギリス系)、P=プロテスタント信徒という意味だ。この3つを兼ね備えた人たちこそが、確かにアメリカ社会のエリート層を長く形成してきた事実がある。
アメリカは、王様のいない共和政国家として建国された。よってアメリカ国民は、まさに「歴史上、最も偉大な大統領」と言われるエイブラハム・リンカーンのように、貧しい生まれであっても懸命に勉強して肉体労働などに励み、誰にも縛られない自由の精神とともに成り上がっていく、セルフ・メイドマン(独立独行の人)の生き方を、最も尊い人間精神のありようとして称揚してきた。
ところがその観点からすると、カトリック教会とは結局、バチカンのローマ教皇という“絶対君主”の強力な権威の下に存在する宗教であり、そうした教えは人間の自由な精神を損なうという、一種の陰謀論にも似た考え方が、アメリカの保守層の間には伝統的に存在してきた。白人至上主義団体・KKKの名前はよく知られたものだと思うが、彼らは実は黒人の抑圧とともに、カトリック信徒への攻撃も昔から行なってきた団体で、このように実はアメリカには根強い“カトリック嫌悪”の感情がある。
しかし前述したように、トランプはやがて発足する自身の政権の重要なスタッフに、バンスとルビオという、2人のカトリック信徒を起用しているのである。特にバンスはベストセラーになった自叙伝『ヒルビリー・エレジー』において、自身はスコッツ=アイリッシュ(アイルランドの北東部に住む人々)にルーツのある人間で、すなわちアングロ・サクソンではないと語り、「私は白人にはちがいないが、自分がアメリカ北東部のいわゆる『WASP』に属する人間だと思ったことはない」と言い切っている。
また、彼ら以外にトランプ政権の重要閣僚に内定した人々の顔ぶれをながめると、例えば司法長官に指名されたパム・ボンディはイタリア系で、サイエントロジーとの関係を取りざたされている人物である。さらにこれも重要閣僚である財務長官に就くスコット・ベッセントは、自分がゲイであると公言している人物。彼が実際に就任すれば、アメリカ史上初の同性愛者(を公表している人物として)の財務長官となる。