不作為バイアスは何かをして怒られたり、失敗するのなら、何もしないでマイナスの結果になるほうがマシと考える傾向のことだ。結果、何も行動を起こさないことになる。松本人志氏が休業に入り番組降板をしたタイミングで終了する機会があったが、「その時は彼女のコンディションが悪かった。終了することで刺激するかもしれないと思った」と港氏は答えた。マイナスの結果になるかもしれないなら、番組はそのままでいいと考えたのだろう。
だが刺激になるかもしれないと考えたのは港氏であって、女性ではない。女性とは「直接コミュニケーションが取れない時期もあり、医師を通してコミュニケーションを取っていた」と述べている。女性の体調や精神状態について注視していたものの、問題発生に関する事実の把握や中居氏の番組継続について、港氏は彼女の感情や意思などはきちんと確認しなかったようだ。
「女性側がどういう気持ちになっていると思うか」と記者から問われても、言葉を濁すだけで答えることができない。「女性から会社側にどういう要求があったか」と聞かれても、「誰にも知られず自然な形で職場復帰したい」という希望だけで、中居氏の番組継続について聞くことはなかった。同じことは中居氏の場合にも言えた。事案を知って以降、フジテレビでは複数回中居氏から話を聞いたという。だが女性と異なる認識を中居氏が持っていたことを知っても、港氏は「中居氏側のヒアリングには着手しなかった」という。ヒアリングすれば誰かの知るところとなると、ここでも不作為のバイアスが働いたのだろう。
問題が問題であり、相手は国民的スターとなれば、ヒアリングが難しいことは理解できる。だがそれではフジテレビが掲げる人権方針は守れない。企業のトップ、リーダーとしてのあるべき姿がそこにはなかった。