何歳まで働けるか、老後の身の振り方など、残りの人生を意識し始める50代。若い頃とは違う焦りや不安に襲われる年代でもあるが、これからの人生をより良く生きるためには、どのような心構えを持てばいいのか。
「“人生の棚卸し作業”が大切」と語るのは、2019年にスタートしたグルメ番組『町中華で飲(や)ろうぜ』(BS-TBS)が人気のお笑いコンビ・浅草キッドの玉袋筋太郎(57歳)だ。「50代には50代にしか持ち得ない武器や味わいがきっとあるはず」と同年代にエールを送る。
50代半ばを過ぎた玉袋が「美しく枯れる」生き方をテーマに、右往左往しながらも前に進もうと懸命にもがく心境を綴った『美しく枯れる。』(KADOKAWA)より、玉袋ならではの50代の仕事術や生き方のヒントをお届けする。(同書より一部抜粋して再構成)【全4回の第2回。第1回を読む】
* * *
「美しく枯れる」ということを考えたときに、ふと「発酵」と「腐敗」という言葉が頭に
浮かんだ。
発酵している状態なら絶品となる珍味も、一歩進んで腐敗してしまったらただの腐った食い物になって、腹を下すことになる。
これは腐敗なのか、それとも発酵なのか?
ギリギリのラインのところで、「食べられそうだな」って口にしてみる。「あっ、ダメだ」ってペッと口から吐き出すこともあれば、「おっ、意外にいけるぞ」となり、「いやいや、これは病みつきだぜ」って箸が止まらなくなることもある。
フグの卵巣なんて、本当にすごい食いもんだぜ。元来、毒性が強いのに、数年間糠漬けしたら毒が抜けて信じられないくらいの美味になる。
若い頃は釣ったばかりの鯛を船上でさばいて、まだ口がパクパクしている状態で躍り食いするような華やかな素材に魅了されたものだけど、50代になったらあらためてこのわたや塩辛の旨みがさらに理解できるようになった。
人間だってそうだよな。若い頃はとげとげしていて、「売れたい」「儲けたい」「モテたい」と欲望にまみれているのに、「人生」という糠床につかることで毒素が抜けて、いい味が出てくる。
それこそ、年齢を重ねて蘭奢待のような絶妙な香ばしさとなるのか、それとも単なる加
齢臭となってしまうのか──。そこには、天と地の差があるよ。
そしてこのスタンスは、「50代の仕事術」にも通じるものがあると思う。
オレには、鯛の躍り食いのような華やかさはすでにない。いや、そもそもなかったのかもしれない。眩しいくらいにキラキラして華やかな芸能界では、強烈な華やかさがないと天下は獲れないよ。
でも、50代になったことで、ちょうどいい具合に発酵が進んで、ようやく年相応の渋み、辛み、塩みのようなものが評価されるようになってきた。
その最たるものが、『町中華で飲ろうぜ』だよ。
最近になって、オレにしかできない仕事、オレの持ち味が活かせる場所が増えてきたように感じている。もちろん、ここで調子に乗ってしまったら、そのままズルズルと「発酵」ではなく「腐敗」となってしまうことも理解している。
やっぱりさ、50も過ぎればいつだっていい具合に発酵している状態でいたいものだよな。そして、それこそがこの本のなかで何度も伝えている、「美しく枯れる」ということ。
「『町中華で飲ろうぜ』を10年も、20年も続けていきたい」。それは半分冗談で、半分本気でもある。オレがこれから年齢を重ねていくことで、自分でいうのもアレだけどさ、これからもっと円熟味を増していけると思っているんだ。
そうなったら、もっともっといろいろな表現ができる気がする。若い頃とは違った自分
になれそうな気がする。
最近は、そんなことを痛感している。