気をつけているのは水ですね。この季節は、夏にくらべると飲む量は減りますが、脱水症状に陥らないように、適量を飲んでいるかのチェックは必要です。冬はあまり汗をかかないので、水はあまり必要がなさそうです。人間だって涼しいとあまり水分を摂らなくなると思いますが、乾燥しているから喉がカラカラになるでしょう。水分が足りないと便秘の原因になることもあります。馬にとって便秘は病気、命にかかわります。夜は厩舎に人がいなくなりますが、飲みたい時にしっかり飲めるようになっています。
冬場は、暑さが厳しい夏にはできないようなしっかりした調教ができます。運動をしても汗をあまりかかないし、その後しっかり食べてくれれば体重も維持しやすくなります。トレセンではもちろん、体調が悪くない馬は放牧先でもしっかり鍛えてもらうようなプログラムを考えてもらっています。プロ野球選手が、シーズン前の自主トレやキャンプで体づくりをするのと同じですかね。
成長の時期というのは人間も馬もそれぞれ違うけれど、冬場の調教の効果がその半年後ぐらいに現われてくるような気がします。秋競馬で放牧から戻ってきた馬に対し「夏を越えて逞しくなった」と言うことがあります。冬場のトレーニングが活きて身になってきているとうれしいですね。
【プロフィール】
蛯名正義(えびな・まさよし)/1987年の騎手デビューから34年間でJRA重賞はGI26勝を含む129勝、通算2541勝。エルコンドルパサーとナカヤマフェスタでフランス凱旋門賞2着など海外でも活躍、2010年にはアパパネで牝馬三冠も達成した。2021年2月で騎手を引退、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。この連載をベースにした小学館新書『調教師になったトップ・ジョッキー~2500勝騎手がたどりついた「競馬の真実」』が発売中。
※週刊ポスト2025年2月7日号