1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏は、2022年3月から調教師として活動中だ。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、競走馬の毛艶と食事についてお届けする。
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牧場などに見学に行ったことがある人は分かると思いますが、馬は地面に生えている草を食べている時間が多い。トレセンでも馬が空腹になる時間をなるべくつくらないということは皆さんもご存じだと思います。食べ終わって飼い葉桶が空になったら、牧草を馬房の中に入れておきます。馬は腸が長い動物なので、空腹時間が長くなると体に負担がかかってしまうのです。
朝早めに運動する馬には終わってから食べさせ、少し遅い時間に運動させる馬は、運動前に軽く食べさせます。
人間はバランスよく食べないと体によくない、朝昼晩ちゃんとメリハリつけなければならないなどとよく言われますよね。馬は基本的に草食動物なので外敵に狙われないように自分の安全を考えながら、必要に応じて食べているのだと思います。なかにはお腹がすくと寝藁まで食べてしまう馬はいるので、そういう馬に対しては人間のコントロールが必要です。好き嫌いがある馬もいるので、サプリメントなどでバランスを取ることもあります。でも、とにかく食べる量が多すぎて、とんでもなく太くなってしまうことは少ないですね。まれにいますけど(笑)。
パドックなどで見た時、毛艶がピカピカに輝いているような馬は、しっかり食べていてそれがよく消化され、吸収されて体調がいいからということが多いように思います。飼い葉が食べられなくなって、エネルギーが蓄積できていないと、自分の体を寒さから守るために冬毛が伸びることがあるようです。見た目もボサボサした感じなのですが、やはり体調も今一つということが考えられますが、これも一概には言えませんね。
これは個体差があって、冬毛が伸びている=走らないということではないですよ、念のため。毛艶がいいというのはあくまで馬の体調を見るファクターの一つです。昔にくらべると、栄養価の高いものを与えることが多いので、冬毛が伸びている馬は減ったと思います。