実は超保守的ラインナップだった
こうして見ていくとシビアな設定やシリアスなムードの作品が多いことに気づくのではないでしょうか。特に主人公が追い込まれるシーンが目立つため、フジテレビそのものに重ね合わせやすいのかもしれません。さらに主人公が1つの苦難を乗り越えても、すぐに次の苦難がはじまり、コメディパートなどの気が休むシーンが少ないことも含め、良くも悪くも作品ジャンルや脚本・演出の偏りが見られます。
そしてもう1つ見逃せない偏りは、『日本一の最低男』以外の4作は週替わりゲストが登場する一話完結型の構成であること。しかも4作すべてが命をめぐる物語であり、それは業界内で「視聴率獲得という点で一定の結果が見込め、失敗のリスクが少ない」といわれる安定路線のコンセプトです。
しかし、今回の騒動によって視聴率獲得どころかスポンサーがCMを差し替えるという真逆の事態に陥ってしまいました。それ以上に深刻なのは、数年前からドラマ業界では「マーケティングを踏まえた安定路線の作品では視聴率が取れなくなり、ネット上の話題性や配信再生の動きも鈍い」と言われていること。つまり、今回の騒動がなくても苦戦しそうな保守的なラインナップだったのです。
さらに気がかりなのは他局のドラマに比べて主要キャストの数が少ないこと。実際、番組ホームページの相関図を見ると、『問題物件』は6人、『日本一の最低男』は7人。『アイシー』も物語の多くを柊班の5人が占めていますし、出演俳優を絞ってコンパクトに制作している様子がうかがえます。
「今回の騒動でさらなる制作費削減は免れない」と言われる中、春以降は思い切った作品を仕掛けられるのか。現場スタッフの奮起に期待したいところです。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。