入団テストで「チビはいらん」と言われた真相

 阪神は試合前のシートノックにショーの要素を入れて観客に見せていたという。

「肩の強い三塁手の三宅さんにはライン際のゴロを打ち、吉田さんにはクイックスローができるようにバントを転がす。ボクには二塁ベース上に打ってジャンピングスローをさせた。相手チームもベンチから見ているし、どこの球場でもゲーム前のシートノックは拍手喝采。阪神は守備練習で銭が取れるといわれていた」(鎌田さん)

 吉田さんは拙著『巨人V9 50年目の真実』(小学館)の取材で、華麗と評される自分の守備についてこう語っていた。

「ボクは体が小さかったので、とにかく早く投げないといけないというので努力はしました。当時はエラーでもしようものなら、“どないしとんねん”と怒鳴られた。一塁は三塁からコンバートしたばかりの藤村冨美男さんで、ストライクを投げないと捕ってくれない。1年目38、2年目30とエラーも多かったが、“人は失敗して覚える”が口癖の松木謙二郎監督は使い続けてくれた。この監督でなければ今のボクはなかったと思う」

 身長167センチの小柄な体型から「今牛若丸」と呼ばれた。高校卒業時に阪急の入団テストを受けたが、当時の浜崎真二監督が「あんなチビはいらん」として落とされたとの話が伝わっていると聞いたところ、吉田さんは笑いながら「ちょっと違ってますわ」と真相を語ってくれた。

「阪急の二軍監督だった西村正夫さんが高校のグラウンドに来て“阪急に来ないか”と誘われたが、体も小さいのでその場で断わった。当時は体重が13貫500(51キロ)でモヤシだった。そんなことがあって大学に進学した。

 すると阪神が獲得する予定だった慶応大の松本豊さんが社会人に進んでしまった。そこで急遽ボクを獲ることになった。スカウトの猛アタックに折れる形で1年生の大晦日に大学を中退して入団したんです。両親は反対だったが、野球を辞めても親会社(阪神電鉄)で雇うとまで言われたし、藤村(冨美男)さんが“プロでやれる”と太鼓判を押してくれたと聞いて入団を決めた。大卒の初任給が1万円に届いていない時代に、契約金50万円、月給3万円。厚遇でしたね。ただ、藤村さんの話はまったくでたらめでしたが(笑)」

 ルーキーイヤーにレギュラーとなり、打順は8番だったが、打率.267をマーク。小柄でもプロで通用することを証明したのだった。心よりご冥福をお祈りいたします。

■取材・文/鵜飼克郎(ジャーナリスト)

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