吉田さん本人が嬉しそうに語った「平凡なセンターフライがサヨナラ二塁打に」の記憶
拙著『巨人V9 50年目の真実』(小学館)の取材でインタビューに応じていただいた時に、この話を吉田さんにぶつけたことがある。吉田さんもまたカネやんの話をする時は嬉しそうだった。
「ボクはカネさんを得意にしていましたが、国鉄時代の印象が強いですね。巨人に来てからはカーブばかりでしたが、国鉄の時はストレートしか投げてこなかった。ボクは高目が好きで、高めのストレートをヒットすると、次の打席でも“チビ、もう1回打ってみろ”と打たれたのとまったく同じコースにストレートを投げてくる。それをまた打ち返すと、もう投げてきませんでしたわ(笑)。カネさんは背が高いし、ボクは小さかったから、低目に投げたつもりがちょうどバットを構えたところに入ってくる感じでしたわ」
金田さんとの対戦で記憶に残っている打席を聞くと、吉田さんはこんな話をしてくれた。
「カネさんとはいろいろありすぎて困りますが、国鉄時代の甲子園での試合ではこんなこともありましたわ。1点を取ればサヨナラ勝ちという場面で、セカンドにランナーを置いてボクが打席に入ると、マウンドのカネさんがセンターの丸山完二に“前を守れ、前を守れ”と指図した。あまりにしつこく言ったので丸山は頭に来たのかセカンドベースの真後ぐらいに守備位置を変えた。
ボクがカネさんのストレートを打つと平凡なセンターフライが二塁打になってサヨナラ勝ちですわ。国鉄時代はそんなワンマンだったカネさんも川上巨人の下ではチームプレーに徹した。ちょっと面白みがなくなりましたね(苦笑)」
天国では再会した金田さんと野球談議で盛り上がることだろう。合掌。
■取材・文/鵜飼克郎(ジャーナリスト)