衆議院赤坂議員宿舎は2007年完成。地上28階、地下2階、3LDKが300戸あり、食堂、会議室、社交室、医務室などの設備がある(時事通信フォト)
機密情報を持つだろう大臣が、部屋にカギも掛けずに外出するという事実は衝撃的だ。宮崎氏によると「議員って、赤坂宿舎で鍵を掛けない人が多いんですよ。セキュリティーバッチリだから。(住んでいる人が)議員なんで変なことする人はいないだろうという前提でいるので、岩屋さんもカギをかけてなかった」という。昨今、安全神話が崩れてきた日本の中で、議員宿舎には神話が残っているらしい。巷とはかけ離れた環境にあるようで、ここなら問題ない、私だけは大丈夫という岩屋氏の「楽観性バイアス」が鍵をかけなかった原因だ。
なぜ女性が宿舎に入れたのかについても宮崎氏が説明している。議員宿舎は青山と赤坂にあり、女性は先に青山へ行った。「その人が青山宿舎に行って『スタッフです』と言って岩屋さんの所に入ろうとした。そうしたら『先生は青山じゃなくて、赤坂ですよ』って赤坂に通された」という。普通なら「スタッフです」と名乗る者が自分の事務所の”先生”の宿舎を間違えるだろうか?と疑問に思うのではないか。それとも間違える人が多いのだろうか。
宮崎氏の説明によると、それで「青山の宿舎から赤坂の宿舎の方にスタッフ同士で『今から行きます』と言って、ちゃんとした人が来ると赤坂の人が捉えてしまって、部屋まで案内してしまった」ということらしい。青山の宿舎では「スタッフ」と名乗られたことで関係者と勘違いし、疑いを持たなかったのだ。「代表性ヒューリステック」によって、そう判断したのだろう。
代表制ヒューリステックは白衣を着ていると医者、バレーボール選手は背が高い、というような典型や、ステレオタイプ的なイメージ、過去の代表的な例との類似性に基づいて、直観的に判断してしまう傾向のことをいう。宮崎氏の言う通り、どちらもヒューマンエラーであり、思い込みによるバイアスが重なったことで起きた事件だ。怖いのは、通常の警備体制では予想しないことを普通に思いついて行動する人である。だがそうと思わず、被害がなく、安全とされる宿舎の環境に慣れてしまい「これくらいは大丈夫」と危険を軽視したからこそ、岩屋氏は女性をそのまま帰してしまったのではないだろうか。
警察当局や宿舎の管理会社に対して警備強化を言うだけでなく、自身の危機管理意識も見直してもらいたい。