女性同士の一歩踏み込んだ友情を書くのが苦手だった
短篇を書く時は、初めに主人公のキャラクターをかなり丁寧につくりこんでおくそうだ。
「いい意味で私自身と永遠子には距離があったので、知り合いの女性や女友だちを見守るような距離感でいたから、どういう展開になるか自分でもわからなくて、書いていて面白かったです」
社会通念ではタブーとされる関係に踏み込もうとする姪と、彼女の思いを受け止める叔父。一方で、主人公の職業は、法律や社会通念を知悉する弁護士に設定されている。
「今回の小説は、ちょっと浮世離れした主人公が世間には認められなくていいから恋愛に溺れていく、という物語にはしたくなかったんです。ちゃんと社会性があって、いい意味でも悪い意味でも人の目が気になり、周りから認められたいという気持ちもある。そういう一般的な感覚と、叔父が初恋の相手でずっと一緒にいたいと思う逸脱と、どちらかに偏りすぎず、バランスを取って人生を歩んでいくという人物像は、今まであまり物語に書かれたことがないんじゃないかと思います」
社会の中できちんと日常生活を送りながら、周囲の人たちには認められない関係性に悩み、揺れ動く主人公が描かれている。
心身の調子を崩している時に取り組むにはかなり難しい題材に思えるが、本調子ではなかったからこそ、書きたい時に書きたいものが書けた、と島本さん。
「連載ではなく不定期で書かせてもらいましたし。後半は私自身かなり復調してきて、永遠子が弁護士として事件に向き合うまでの構想も固まりました。その時々の自分のコンディションは、実はすごく毎回作品に影響していると思います」
そう言われて読み返してみると、「骨までばらばら」の終わりで夫と離婚した主人公は「二体の死体のように」並ぶ叔父と自分のイメージを思い浮かべ、たしかに先が見えない。そこから「ハッピーエンド」の場所までたどりつくのだ。
10代でいったんあきらめたプロットを、改めて書いてみようと思った理由を聞いてみた。
「うーん、なんででしょう、ちょっと時間をください。……たぶん自分の書く主人公とすごくリンクする題材だからでしょうね。もともと年齢差のある恋愛小説を書くことに思い入れがあって、そこにこの(かつてあきらめた)設定を入れたら、何か新しいものが生まれるかもしれないと感じたんだと思います」
小説を書く時、島本さんは得意なことと苦手なこと、新しいことをそれぞれ1つずつ入れるようにしているという。
「最後の部分を書き進めていて、『何か書き残している気がする』と引っかかっていたんです。最後の最後に『主人公と親友の萌との関係性がまだ残ってるんだ』と気づきまして。私は女性同士の一歩踏み込んだ友情を書くのが苦手だという意識がずっとあって、自分には体温が高すぎると思ってきたんですけど、だからこそいつか書きたいと思ってはいたんです。
恋愛はお互いが変わってしまったら成立しなくなることもあるけど、女同士の友情って、互いが変化するなかで疎遠になったりまた近くなったりしながら続いていったりする。そういう関係性を、自分はやっと少し理解できたんだなと。それはやっぱり、私自身が年齢を重ねたことが大きいと思いますね」
【プロフィール】
島本理生(しまもと・りお)/1983年東京都生まれ。2001年『シルエット』で群像新人文学賞優秀作、2003年『リトル・バイ・リトル』で野間文芸新人賞、2015年『Red』で島清恋愛文学賞、2018年『ファーストラヴ』で直木賞を受賞。近著に『憐憫』『星のように離れて雨のように散った』『2020年の恋人たち』『夜はおしまい』など。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2025年2月20・27日号