水原被告が騒動前まで住んでいるとされる高級住宅地「ニューポートビーチ」
父も嘘をつかれたのか
今年1月下旬、本人と英政を含む水原家のメンバーはそれぞれ、審理を続ける米連邦地裁に書簡を提出した。特に水原の主張には驚かされた。
大谷の通訳としてだけでなく、身の回りの世話も含めて24時間体制で働き、過酷な労働環境に置かれていたと訴えたのだ。エンゼルスの球団から支給されている給与に加え、大谷から別途給与も受け取っていたが、大谷の近くに住むための高額な家賃の支払い、グリーンカードを取得していない妻が日米を行き来する渡航費などで出費がかさみ、ギリギリの生活を強いられていたとも打ち明けた。
そうした経済的困窮によるストレスが、違法賭博への引き金になり、泥沼から抜け出せなくなったというのだ。
〈翔平のお金を使う以外に(胴元に)支払う方法が見つけられなかった。私は当時、恐ろしいほどの依存状態に陥っており、ギャンブルをやっている時だけ人生に希望を見出せた〉(水原の書簡より)
この書簡を読んだ時、英政が私に言った次のような言葉とつながった。
「ウチらだって、(色々)あるからね。そのうち出るからそれまで待ったら?」
「一平は寝ないでやってたよ」
「翔平のことをもっと調べたら?」
私が英政に接触した時点で、英政自身も水原に関する書簡を地裁に提出する予定だったのだろう。そして水原の主張も把握していた。だから私に言いたくても言い出せず、それとなく仄めかしてきたのではないか。
だが、そんな精一杯の水原の主張も虚しく、検察からはことごとく論破された。明らかになったのは、水原が嘘を嘘で塗り固めていたという事実だけだ。
英政も息子の主張を聞き、それを信じ、「言い分がある」と思い込んでいたようだが、実は英政も嘘をつかれていたのではないだろうか。
水原に量刑が言い渡された2月6日夜、英政は居酒屋に出勤していなかった。果たして英政は、何を思っていただろうか。真面目で優しかった息子は今も、沈黙を貫いている。
(了。第1回から読む)
【プロフィール】
水谷竹秀(みずたに・たけひで):ノンフィクションライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年、「日本を捨てた男たち」で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。最新刊は『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小学館新書)。10年超のフィリピン滞在歴をもとに「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材。2022年3月下旬から2か月弱、ウクライナに滞在していた。
※週刊ポスト2025年2月28日・3月7日号