蛯名正義氏は「ダート競馬」をどう見ているか
1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏は、2022年3月から調教師として活動中だ。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、ダート競馬についてお届けする。
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今週末は早くも今年最初のGI、ダート1600mのフェブラリーステークス。まだこのレースがGIIIだった1992年、ラシアンゴールドで初めての重賞を勝たせてもらった、僕にとっては思い出のレースです。
冬競馬ではダートのレースが多くなりますが、同じダートでも夏と冬では乗っている時の感覚がかなり違います。冬は湿度が低いこともあって下はパッサパサ。走っても走っても空回りして、地面を掴まえきれない感じがします。良馬場でもけっこう時計がかかっていることが多いのではないでしょうか。氷の上というのは大げさだけど、なんか上滑りしている感じですね。
日本のダートは「砂」なので滑るようです。アメリカは「土」なので硬くてスピードが出る。湿度の低い冬場は競馬場のダートだけじゃなくて、トレセンのウッドチップコースもなかなかいい時計が出ないものです。調教タイムを見る時はそういうことも頭に入れておくといいかもしれません。
ダートを使っている馬で夏場に好成績を残しているのに、冬はダメだというのはそういう馬場の質もあるかもしれませんが、馬自身の体調も関わってくるので一概に馬場のせいばかりだとは言えません。ダートの方が芝より安定した成績が出せます。芝は雨で重くなると、スピード馬が極端に苦手だったり、逆に良馬場ではなかなか勝ち負けできないような馬が浮上してくることがあるけれど、ダートで強い馬は馬場状態に左右されるということがあまりないと思います。
日本はスピード競馬。やはり目指すところはクラシックなので、馬主さんとしては芝のレースでデビューしてほしい方が多いかもしれません。エピファネイアやキタサンブラックというトップサイアーの子だったらとりあえず芝から、ということを考えることが多いでしょう。冬は芝のレースが少なくてなかなか出られないからといって、ダートからデビューすることは少ないのではないでしょうか。
脚元がまだしっかりしていないケースだと、ダートを使ったりもします。スピードがあれば、そこでも結果が出ることもあります。春になると重や不良馬場で脚抜きがよくなると、ぐんと時計が速くなります。