小学生時代はバッテリーを組んだ(左から田中将大、坂本勇人)。写真提供/山崎三孝氏
性格も正反対で、「坂本君は何をやらせてもそつがない天才型で、田中君はちょっと鈍くさいマイペースな努力家だった」という。
「チーム名物の3キロ走では坂本君があっさり完走する一方、田中君は途中でバテていました。壁に向かっての30球の的当てでも坂本君は適当にさっさと終わらせるけど、田中君はなかなか当たらず、いつまでも投げ続けた。田中君は自分が納得できなければ、家に帰ってからもずっと練習していた。そういう子でした」(山崎氏)
初めての「本当の壁」
小学校時代にキャッチャーだった田中は、ネットに向かって一日中スローイングの練習をしていたという。山崎氏は「本来の田中君は努力家なんです」と何度も強調した。
「これまでは何でも自分でできたから指導者の言うことをあまり聞いてこなかったんじゃないかと思う。だけど、今回は本当の壁にぶつかった。だから実績のある久保コーチと二人三脚で再生を目指すことに納得したのでしょう。努力家である根っこの部分は変わっていないと思う。本来の姿に戻れば、復活できると思いますよ」
そして、もうひとりの元教え子である坂本について山崎氏はこう続けた。
「坂本君も年齢を重ねて“オレは天才だ”という感じではいられなくなった。若手の突き上げがあるし、昨シーズンは二軍に落ちる経験もした。そういう状況だからこそ、田中君にも力を貸してやってほしいですね。坂本君が守るサードはマウンドから一番近いのだから、田中君がピンチの時は真っ先に駆け寄って声をかけてほしい。それは、坂本君にしかできないことだから……」
エース・菅野が抜けた巨人にとっては、田中の活躍がリーグ連覇、そして日本一奪還のために必要となる。それに関しては田中も強い決意を持っているはずだ。『田中将大 ヒーローのすべて』(北海道新聞社)の著者でジャーナリストの黒田伸氏はこう言う。
「2006年のドラフト前日、駒大苫小牧の寮母さんから『正直に自分の行きたい球団を書いて』と色紙を手渡されたマー君は、そこに『巨人』と書いた。それまでマスコミには公言しなかったけど、実はお父さんの影響で昔から熱烈な巨人ファンだったんです。テレビで観た巨人の選手に憧れて野球選手になった彼が巨人のユニフォームを着る。ある意味“原点”に戻ったわけです。初心に返って頑張れる状況は整ったと思います」
大きな期待を背負って、田中が勝負のシーズンに挑む。
※週刊ポスト2025年2月28日・3月7日号