根岸吉太郎・監督(左)と女優の広瀬すずが対談
話題作への出演が続く女優の広瀬すず(26)が、新作映画『ゆきてかへらぬ』(2月21日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開)で“激情の女”を演じた。詩人・中原中也と評論家・小林秀雄のふたりの男に愛された女優・長谷川泰子だ。時に激しい感情ぶつけてしまう気性を持つ役どころに挑んだ広瀬と、『遠雷』『探偵物語』などで知られる巨匠・根岸吉太郎監督(74)が語り合った。
広瀬:これまでの作品のなかでも、すごく体力のいる役でした。演じるだけで消耗するのを感じるほど、泰子の感情の起伏が激しくて。ご本人は相当な体力の持ち主だったんだろうなと思いました。
根岸:当初からこの泰子役を演じられるのは広瀬さんしかいないと直感し、4~5年前にお声がけしたんです。
広瀬:田中陽造さんが40年前に手掛けた脚本なので、中也たちの関係性の生々しさが文字から瑞々しく伝わってきました。
根岸:作品に出てくるセリフはとても美しい日本語で、非常に文学的な言語で組み立てられている。言葉の持つ美しさと繊細な響き、それらをリアリティを持って発するという難しい演技を見事に体現していて、驚きました。
広瀬:最初はセリフが現代調になっていないか、難しく考えることもありましたが、あえて細かな解釈を挟まず、脚本から感じ取ったものを素直に演じるよう心がけました。
根岸:撮影を重ねるごとに、広瀬さんが丁寧に脚本を読み込んできてくれていることをひしひしと感じました。それに撮影中に演技やセリフの要望を私から出すことはほとんどありませんでした。
広瀬:そうなんです。泰子というキャラクターについての解釈や方向性みたいなものを監督と話し合う場面はほとんどありませんでしたね。
根岸:この作品は3人の物語ではあるけれど、キーとなるのは間違いなく泰子だとずっと思っていました。
広瀬:一番印象深かったのは中也とケンカするシーンですね。互いにビンタの飛び交う激しい場面なのですが、蹴ったり、暴れたりを通して2人の熱量が高まり、その昂揚を通じて中也と泰子のつながりを感じることができた気がしています。中也を演じた木戸(大聖)くんとは初共演だったので、ちょっと驚かせてしまったかも(笑)。
根岸:あれはもう、アクション女優の域でしたね。
広瀬:そうですね(笑)。撮影中は無我夢中でしたが、あの高い熱量で激しい感情を共有できたのは、とても貴重な体験でした。
撮影/西條彰仁 取材・文/小野雅彦
※週刊ポスト2025年2月28日・3月7日号