選考委員。右から酒井順子氏、森健氏、河合香織氏
「周辺を丹念にたずねてやっと“姿”が浮かび上がる」
【受賞者の言葉】宇都宮直子氏
2023年8月「頂き女子りりちゃん」こと渡邊真衣被告が逮捕された。彼女が男性の恋愛感情を利用して騙し取った約1億6000万円がすべて歌舞伎町のホストに注ぎこまれていたことを発端に「担当」に熱を上げる女性たちが“立ちんぼ”や“海外出稼ぎ”で体を売ることにより店に通う資金を捻出し、またホスト側も女性たちに売春を強要する「悪質ホスト問題」が可視化された。問題は、国会でも取り上げられ歌舞伎町を飛び出し全国区のものとなった。
一方で歌舞伎町、そしてホストとそこに通う客をテーマとした作品は増えている。とりわけ驚いたのは2025年正月に『新・暴れん坊将軍』(テレビ朝日系)でも「江戸時代のホスクラと騙されてそこに通う町娘」が重要なキャラとして登場したことだ。「ホストクラブ」と「客」は「エンタメ」「娯楽」として消費されているように見える。その「ストーリー」の裏側には、歌舞伎町以外では生きていくことができず、売り上げをたてなければ住む家すらなくなるようなホストたちと、彼らのために女性たちが流した“血”と“涙”の切実なリアルがあることを、どれほどの人たちが理解しているのか。
渡邊被告は「りりちゃん」として主にSNSを中心として活動していた。昨今では事件の関係者や本人がネット上で自ら発信することが多く、取材でもSNSに書かれた内容をヒントとしたり取材申請ややりとりをしたりの「空中戦」が増えている。しかし今回の取材により彼女が拘置所から発信した「ごくちゅうにっき」、面会での言葉だけに頼るのではなく被害者の方を始め周辺を丹念にたずね、その“姿”をとらえ直すことの大切さを改めて痛感した。話を聞かせて頂いた皆様に深く感謝いたします。
※週刊ポスト2025年2月28日・3月7日号