NHK『エマージェンシーコール 緊急通報指令室』(公式HPより)

NHK『エマージェンシーコール 緊急通報指令室』(公式HPより)

ワンシチュエーションと声の演出

 ドキュメンタリーとドラマでは、番組ジャンルだけでなく、構成・演出などが大きく違うものですが、この両作に限っては多くの共通点があります。

 真っ先にあげられるのは、「はい119番、消防です。家事ですか?救急ですか?」という司令管制員の言葉をきっかけに動き出していく構成。このフレーズで一気に緊張感が高まり、シリアスな表情になり、懸命な呼びかけを行い、脱力や安堵するなどの様子も一致しています。

 また、指令管制員は、通報者と言葉を交わし、苦しさや痛みを分け合うように引き受け、命の行方を左右するヘビーな仕事であるにもかかわらず、「活躍しても脚光を浴びることの少ない陰のヒーロー」として描かれていることも同様。さらに両作は指令管制員の奮闘だけでなく、「どんな人生を歩んできて、なぜこの仕事に就いたか」などの人柄にもスポットを当てていることも共通しています。

 もう1つ特筆すべき共通点は、どちらも指令室というほぼワンシチュエーションの番組でありながら、感情を揺さぶられること。消防士のような現場での活躍どころか、部屋から出ないため動きそのものが少なく、活躍するパターンも声のみなのに、決して飽きさせないのは、「その仕事内容がいかに難しいもので、多岐にわたっているか」の証ではないでしょうか。

『エマージェンシーコール 緊急通報指令室』は、最初と最後に「プライバシー保護のため、通報を加工・吹き替えし、内容を一部変更している」というテロップを表示し、『119エマージェンシーコール』は、毎回多くの声優を通報者の役に起用しています。このような「視聴者が聞きやすい声の演出を重視している」という共通点も支持を集める要因でしょう。

 どちらも2度3度見ても同じような緊張感を覚える稀有な番組であり、いい意味で「見ていてこんなに疲れる番組はない」のかもしれません。それでも目が離せないのはコンテンツとしてのオリジナリティとエンタメ性が突出しているからであり、「世間の理解を深め、不要な通報を減らす」などの意味も含め、今後もシリーズを重ねてほしいところです。

【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。

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